表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四天王寺ロダンの青春  作者: 日南田 ウヲ
はじまりの跫音
9/107

9 応じてやるか、リスクの及ばない範囲で

(9)



 私は聞きたいね


 ――待てよ


 と(あやかし)に言われて、君なら待ちますか?

 どうよ?


 そう目の前の(あやかし)に言ってやりたいと真帆は思った。

 思ったのなら後は行動が早い。


 ――回れ右だ。


 旋回するように妖に背を向けるや否や、そこに何も居なかったかのように走り出そうとする。

(――無視(シカト)

 ロープレゲームのように呪文を心の中で唱えてその場を去る自分へ再び魔の言葉が飛ぶ。


「君、九名鎮って言うんだろ?」


 ピタリと真帆の背が止まる。止まると真帆は僅かに顔を横に向けた。黒髪が耳朶に触れて流れて落ちて行くのが分かる。

 どうやらこいつには自分の呪文は効かないらしい。


 ――ならば、

 応じるしかない。


 ちょっと嫌な気分だが仕方ない。

 応じてやるか、リスクの及ばない範囲で。

 真帆は振り返った。

 振り返った瞬間、声無く驚いた。いつの間に自分の側に来ていたというのだろうか。狐の白面が眼前に迫ってこちらを覗いていたのだ。

「はぅ!!」

 思わず虚声を上げて相手を勢いよく力任せに突き飛ばす。

 突き飛ばした指の開いた隙間か倒れゆく妖が見えた。しかし(あやかし)は突き飛ばされると倒されることなく、何と見事な身のこなしで後ろに跳躍すると空へバク転して見事に着地したのだ。

 手にした風車は落ちることなく、風を受けてひらひら回転している。まるで時間の急速な変化など、そこに存在しなかった証のように。

 その流れる様な動きに真帆は思わず見とれてしまった。どこかのダンスチームのような洗練された動きとそして片手を軽く突いた美しい着地。

 真帆は思わず心で呟く。

(見事…!!)

 その一言で随分自分の気持ち落ち着いたのか、ゆっくり立ち上がる狐の白面を見る。

(…演劇科の学生?)

 演劇科とは新旧校舎が違う。だから顔馴染みといっても「コバやん」ぐらいしか知らない。しかしながら演劇科の学生であるのなら余りにも見事な躰の使い方といいたい。動きの切れと言い、並大抵の反射神経じゃないだろう。

(…若しかしたら、ダンスミュージック科の学生…?)

 真帆がそうした疑念を持って目を細めた時、(あやかし)は彼女に言った。


「どうやら僕の推測、当たりみたいだね。じゃあさ、九名鎮。その手にしてるヤツ。僕に渡してくれない?それ、凄く僕達が一番欲しい奴なんだ」


 妖はひらひら揺れる風車を手にして、片方の手をまるではじめましての握手でもするように真帆に差し出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ