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四天王寺ロダンの青春  作者: 日南田 ウヲ
END OF SUMMER 夏の終わり
87/107

87 驚き

(87)





 真帆の驚きとは違う驚きが大阪市役所の一室で起きたのは場所が離れていてもさほど変わらない、ほぼ同じ時間だった。

 市役所の一室に持ち込まれたパソコンのモニターを食い入るように見る市の職員と数人の警察官。そしてその後ろに立ってモニターを見る刑事も、少なからずとも驚きを隠すことが出来なかった。

 確かに区役所の案内所にそれは置かれていた。

 それも誰もまだ来ていない区役所に、だ。

 囲むように見ているモニターに映し出されているのは大阪N区役所に設置されている監視用のモニター録画で、そしてその案内所の上に置かれていたものというのは、今映像を覗き込んで囲んでいる人々の後ろの長机の上に置かれている。


 ――それは何か。


 角刈りの頭を掌で撫でた刑事――角谷刑事は市役所に来てこの部屋に入るなり、渡された封筒を手に取って中身を見た。それは白黒写真で辺り一面が焼け野原になっている数枚の風景写真だった。

 それを見て角谷刑事はすぐにピンと来た。この写真は大阪が空襲された直後の写真だと。似たような写真は府警にもある。

 それを次々に見るとある写真で指を止めた。その写真は深くえぐられた土塊が露わになり、おそらく爆弾でえぐられた場所だろう、そこに大きな塹壕ほどの穴が開いて言いて黒い鉄の塊が映っていた。

(これは…)

 そう思って注意深く、写真を見ようとした時、声が飛んだ。

「角谷さん!!」

 自分を呼ぶ声と同時に写真を封筒ごと机に置き、同じようにモニターを覗き込んだ。そしてじっと暫く強面で映像を睨むように見ていたが、やがて映像が映し出す事実に驚きを隠せなかった。

 刑事が見た映像は明け方に移り変わるまでの何でもない風景に過ぎないのだが、暗い早朝から段々状況が明るく鮮明になるにつれて、その案内所の机の上に封筒が置かれているのがはっきり見えたのだ。

 驚きとは正にそれだった。


 ――これは一体?


 いつ誰が置いたんだ?

 早朝の区役所に。


 若い警察官が近くにいる市の職員に言った。

「…最後にここの担当が帰ったのはいつです?」

 聞かれた中年の職員が答える。

「19時過ぎには帰宅しているようなので、そのころにはもうここには誰もいなかったと」

「じゃぁ、その時間にこれがあったと?」

 別の警察官が訊く。

「いえ、帰宅したときには案内所には何も置かれていなかったということらしくて」

「じゃぁ、それ以後の録画は?」

「…それがですね。実はN区役所…ちょうどその日、このモニターの交換作業日でしてね。20時頃から工事業者が入ったんです。だから、それ以後は工事が終わるまでの時間、映像はオフだったんです」

「オフ?」

 角谷刑事がモニターから目を反らして答えた職員へ質問をぶつける。

「それは何時迄?」

 訊かれた職員は他の職員へ目配せするとややおぼつかない口調で答えた。

「確か明け方の三時頃ぐらいやと聞いてます」

「結構、長く遅くまでやってたんやな」

「ええ、一台だけやなくて、全部でしたから」

 ふぅーん、と言うや刑事はテーブルに戻り、椅子を引いて腰掛けた。それから先程自分がテーブルに伏せた写真を手に取った。

「それでその誰が置いたか分からない封筒の中にこれが置いてあった、ちゅう訳やな」

 刑事はもう一度自分が見るのをやめた写真を見る。

 えぐられた土塊の穴の中にうずくまる大きな鉄塊。

 そして封筒を裏返す。 

 裏返すとそこに差出人として書かれているのは、


 ――環境芸術集団「(SHINOBI)


(ど阿呆が、警察をからかいやがって)

 角谷刑事は角刈りの頭をぱっと指で払うと、先程の自分の質問に答えた職員へ顎を向けた。

「ほんで封筒を直ぐ見つけて中身を広げて見て――警察へ連絡、ちゅう訳か」

「ええ」

「指紋が消えてもうてるけどね。残念やけど」

 言われた職員がしぼんた。

「…まぁ、ええ」

 刑事は気にする風もなく答えると質問した。

「それで、そのN区役所の工事っていうのはどこの業者?」

 言われた職員はしぼんだ状態から戻ってこれないのか、別の職員が答える。

「確か、S建設関係のとこかと。それが何か…」

 言われて刑事がゴホンと咳をする。

「…まぁ、隠すほどのことやないけど。もし映像がオフになっているのならその時間に区役所にいた人間が――こんな悪戯しかできんわけやろ?簡単なことやんか。魔法とか忍術なんてあらへん。あるのは現実だけ。そしてそれを調べるのがこちらの仕事や、だからちょっと協力してよ」

 言うと刑事は警察官に目配せする。意を汲んだ警察官は答えた職員と一緒に部屋を出ようとする。

 それは、その施工業者を調べる為に。

「あっ、せや」

 言って刑事は出てゆこうとする警察官を呼び止めると手招きして側に呼び、小声で耳打ちした。耳打ちされた警察官は「分かりました」と答えると足早に出て行った。

 刑事は警察官が出て行った後、持ってきたバッグに封筒と写真を透明袋にいれて仕舞うと駐車場へ向かい、停めていた警察車両に乗り込んだ。

 そしてシートに座るとそこで小さく息を吐いた。

(…今朝、府警に役所から内密に連絡があった。それは環境芸術集団「(SHINOBI)」から朝一に市役所へ送られてきたメールで、内容は簡単に書かれていた。それは――我らが埋めた爆弾イカズチの写真をある場所へお届けしますから確認ください、と。…つまりこの写真の鉄塊が奴等の言う爆弾ちゅう訳か…)

 忌々しい思いを奥歯で噛んだ時、携帯が鳴った。

 素早く手に取ると刑事は通話をする。

 電話越しで喋るのは先程、耳打ちした警察官だった。

 要件を手短に聞いていたが刑事は何かを話の中で得たのか、思わず手を叩きそうになった。そして刑事は通話を切ると笑みを漏らした。

 そして漏らしながら刑事は角刈りの頭を撫でながら小さく言った。

「やっぱ…尾行していた甲斐があった。…と、なると、アイツの学校の件もこれと関りがあるということやな…」


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