81 作戦
(81)
風船爆弾事件のあった翌日、大阪市内はいつも通りの様相だった。
正直、学生の真帆は前回のように学校が一斉休校になるかと思ったが、事実はそうならなかった。それはそれでどこか憎々しい所もあったが、特別講義は自分の将来の為にある訳で、足取りを重くして学園へと向かった。
勿論、それは友人達も同じだろう。
赤点の夏季補講は続けられるのだ。
だが…真帆にはある杞憂がある。
それは自分が指導を受ける「カマガエル」こと鎌田先生が、自分達が関連する不思議な事件ともいえる田中イオリの孫だと言うのを知ったからだ。
会ったらどのような面を下げて会えばいいのか。
そんなことを思い、校門を潜る。
一瞬だが、足が止まったのは昨日のことを思い出したからだ。
それでちらりと振り返る。
振り返った校舎は静かに何も言わずだ。
真帆は数秒だけ物事を思うと、後は歩みを音楽室へ向ける。途中、数人の工事の業者とすれ違う。真帆は階段を抜け、一目散に音楽室へと歩みを進めた。
そして教室前の下駄箱で靴を脱ぐと音楽室に入った。
緊張が背中に這いずるのが分る。真帆は五線譜の入ったバッグを押さえる様にして、自分の練習室へ入った。
入るといつも通り譜面台を立て、それから発生を始める。音楽室の防音室の向こうで声がして人が動く気配がする。それは紛れまもなく、カマガエルが現れた証拠だった。真帆は大きな息を吸った。そして吐いてゆく。何となくだがそれで精神が落ち着いた。
(どうなるもんでもないやない?成る様になれ!だ)
真帆の強い思いが天井まで届く声になった時、ドアが開いた。
開いて誰かが入って来る。
それは誰でもない。
「カマガエル」こと鎌田先生だった。
真帆はこの瞬間、腹部に強い力を籠めた。
それと同時にスマホが鳴る。
――コバやんも、学校に来たって訳ね。
そう、今日此処で「カマガエル」に会うことは勿論、十分予想されることなのだ。そして二人は事前に昨日の筋肉バーガーで打ち合わせをしていたのだ。
つまりこの「カマガエル」からある事に対する反応を引き出すという事を。
真帆は白々しく声を出した。
「先生、おはようございます」
――真帆の時間
それはそうした二人の用意した事前作戦の始まりだ。
勿論、その二人とは、
四天王寺ロダンと難波デンごろ寝助以外にはいない。
真帆の声にカマガエルが大きく顔を上げた。
恰幅が良い鎌田先生は出ている腹をパンと叩くと傍目にアマガエルの親分みたいに見えるその風体で真帆に言った。
「あら、何よ。その声。どこか白々しいわねぇ」
それから後ろ手にドアを閉めた。




