76 期待
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空を見上げる人が多い様な気がした。
真帆は昼ご飯を食べて、服を着替えると帽子を被り通りに出て、ある場所に向かって歩いている。
商店街を行き交うの会話にも昼のニュースの事が話題になっている。耳を澄ませば中にはそれを見たという話も聞こえた。そんな声を真帆の白いスニーカーが踏んでゆく。
ニュースの街頭インタビューやそうした街行く人の話を聞いて道行く真帆が理解したのはこうである。
突如、幾つかの風船が縛られてどこからともなく風に乗りやって来たかと思うと、小さな光を放って爆発。
その爆音は高く、それが響いてから数秒、白い何か塊が見えて広がったと思ったら、そこに炎が現れ、やがて据え広がる様に炎が何かを形取った。
――それはつまり巨大な『鳥』に。
だがそれはほんの数秒程で姿形を消して、やがて跡形も無く消え去った。
(まるでイリュージョンやんか、そんなん。もう魔法よ)
真帆は急いで点滅する横断歩道を渡る。デニム柄のワイドパンツがバタバタと揺れる。
(そんな事、ほんまにできるんかいな)
真帆の正直な気持ちである。
(もしできるとしたら…)
真帆は面前に見えるテレビ局の建物を見上げる。
(CGとかじゃないと無理なんちゃうの)
彼女の足がテレビ局の建物沿いを抜けて大きな公園に入る。
真帆が目指してい歩いていた場所。そこは扇町公園。市内でも有数の大きな公園だ。
そしてその横にはテレビ局がある。
では真帆が、何故ここに来たのか。
それは此処で例の風船が爆発して『鳥』が現れたからだ。
そう、それは鳥は鳥でも、
つまり『火の鳥』
(こんな広い所でそしてテレビ局の横、絶対話題にならない方がおかしいわ)
真帆は白いシャツから腕を伸ばして帽子の鍔を軽く上げて空を見る。見れば伊丹空港へ離陸体制に入った飛行機が空を横切るのが見えた。
真夏の日差しに照らされた機体が陽を受けて反射し、やがて真帆にさよならをするように消えて行く。
真帆は視界から飛行機が消えるのを待って、公園へと歩き出す。
――何故、自分が此処に来たのか。
それは勿論、ここが自宅の近くだからという事と野次馬根性もあるのだが、それ以上に何かメラメラ燃えるものがあったのだ。
――それは何か?
言うまでもない、それは自分自身に対して。いやもっと言うならば自分が関連している学園の変事に対して、何か自信を深めたいからだ。
その為、この突如大阪市内上空に現れたこの『事件』について自分なりの推察を深めれば、自身が関わっているあの学園の変事に自分でもなにかしらの形で辿り着くのではないかと言う期待を込めた、つまり真帆なりの現場回りなのである。
――だが、それは期待通りいくかな?
真帆…
(やってやるぜ)
へへっと軽い気持ちなのがどこか拭いきれない真帆が公園の中に足を踏み入れて数歩歩き出した時、あまりにもの驚きに声が出なかった。
なんと、自分が歩き出した数歩先の木々の茂みの中で、腰を丸めて何かを探しているコバやんの姿を見つけたからである。




