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74 誕生

(74)




「まぁ、それよりも…」

 コバやんは再びタブレットを覗き込む。

 それを見てぎくりとした真帆は少し胸を撫でおろす。

(どうやら、是でその方面の詮索は無くなりそうだ)

 妙な安心感からか今度は友人が何を詮索しているのか気になった。先程の会話が思い出される。


 ――「僕さ、別の事を探そうとして。それを探していたら、その探していたところに『地図』があった。


(…確か、そう言ってた筈…)

 真帆はタブレットを熱心に覗き込む友人に声を掛けた。

「そういやコバやんさ。――別の事を探そうとしてると言ったよね」

「うん、言った」

 画面をタップしながら彼が答える。

「それは何なん?」

「秘密」

 コバやんが即答する。

「ちょっとぉ!!」

 真帆が声を張り上げる。

(またかい!!揶揄いやがって!!)

 怒気を含んで眉を吊り上げた時、コバやんが言った。

「…と、言いたいけど。そうやない。秘密はは解けて『答え』になった」

「えっ!?」

 真帆は怒りの矛先を消して友人に言う。

「どいうこと?」

 コバやんはそっとタブレットを真帆に差し出す。それを静かに受け取り、画面を見る。

 画面は先帆、自分が見ていた田中イオリに手紙の文面だ。

(何だと言うのだろう)

 真帆は画面から顔を上げて友人を見る。コバやんは手を組んで頭をさせて椅子に身を投げ出す様にしている。まるで空想しているようだ。


 ――自分だけの何かに。


 それはもしかしたら先程言った『答え』かもしれない。きっとそれは思案の末に考え抜かれた『答え』なのだろう。

 そうした友人の姿を見て、色んな思いが交差した瞬間、真帆の脳裏に突如何かが閃いて言葉になった。

 それは雲の切れ間から突如落ちた雷鳴の如く。

「あ、…ロ。ダン…!!」

 思わぬ声にコバやんはビクリとなって真帆の方を振りた。

 振り向いて真帆は友人と目を合わせて尚、言った。

「――ロダンが良い!!あと、それと…」

 コバやんは目を丸くする。友人が頓狂したように声を上げるのを見ている。

 真帆は声を上げながら何かを探る。それは甲賀の姿を捉え、自分達が初めて交わった何かを口に出した。

 それは…

 真帆はそこでぐっと喉に唾を飲みこむと満面の笑顔になって言った。

「コバやん、決まったで。役者名」

「えっ!?」

 急に方向の違う事を言われてコバやんが頓狂いた友人の唇が動くのを見た。

「…『四天王寺』…ロダン、そ…う、四天王寺ロダン」

 あまりにも突然の事にコバやん自身も素っ頓狂な顔つきになる。

「え、何よ、それ」

 そう言わずにはコバやんは居られない。

「だからコバやんの役者名よ。『四天王寺ロダン』これがコバやんの芸名、これや!是。中々良いやん。私らの夏の思い出が詰まってる」

 真帆はイヒヒと笑う。笑いながらまるで夏の思い出を思い返す様に真帆はもう一度言った。

「四天王寺ロダン」

 まだ夏は終わっていない。

 だが、そこには夏の思い出が籠められている。

 コバやんは頭を掻きながら言った。

「芸名『難波(なんば)デンごろ寝助』にしようかと思ってたんやけどなぁ」

 それを聞いてぷっと真帆が噴き出す。

「いや、やっぱこっちよ。探偵っぽい。いや、いや…」

 真帆が手を振る。

「役者名として和的にも洋的にもイケるで!!」

 ぐっと拳を握りしめる真帆。会心の笑顔で再びコバやんを見てイヒヒと笑う。それから笑うと今度はまじまじとコバやんを見て言った。

「あかんかな?」

「いや…」

 と、コバやんは言ってから微笑を友人に送る。

「悪くない」

 眼差しに友人に対する誠実が浮かぶ。それは紛れもなく夏を彩ってくれた友人への最大の感謝を込めた眼差し。 

 真帆はどこかそこに湿りを感じた。

 それから鼻を掻くと、気持ちを引きしめつつも何処かお茶らけた気分で話し出す。

「それで話の腰を折ったけど、ロダン先生。貴方の『答え』とやらをこの『難波(なんば)デンごろ寝助』がお聞きしようじゃ、あーりましぇんか~ぁ」

 歌舞伎調の長調子で真帆がコバやんに言うと、二人とも思わず視線を合わせて腹を抱えて笑い出した。

 笑いが止まらない。

 だが、どちらからという事も無く静かに押し黙ると、やがてコバやんが首をポンと叩いた。

 それはまるで劇の新しい幕が上がる時に鳴り響く太鼓の様に。

 コバやんは真帆に差し出したタブレットを引きもどして置くと、次に何かに手を伸ばした。それは真帆が先程戯れにコバやんに被せた白狐面。それらを二つ並べてコバやんは言った。

「まぁ…事実という事だね。地図も、そしてそこに何があるのかというのも。全てこれで揃ったんだ」

 コバやんは言うと白狐面をひっくり返して、じっと書かれた文字を見た。


 それは(かみなり)ではなく、

 イカヅチと言う文字を。



 そして此処で二人に突如、暗雲が立ちこめる。それは真帆のチャットアプリが呼び込んだのかもしれない。

 真帆がスマホを取り出してメッセージを見た時、彼女は驚いてコバやんに言った。

「コバやん…」

 真帆はコバやんの顔を見た。

「隼人、学校帰りに何か警察に質問受けたみたいよ」

 それを聞いてコバやんこと『四天王寺ロダン』は眉を潜めたが、やがて、真帆に言った。


「大丈夫、計算の内さ」


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