65 衝撃
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真帆とコバやんは図書館の自習室に居る。二人の視線の先に有るのは大きく開かれた一冊の地図。
真帆が声をコバやんに声を掛けた時、彼はこの本で顔を覆う様に眠っていた。
勿論、声をかけて彼の肩を揺らせば床からむくりと起きて、辺りを見回る素振りは変わらない。
何とも間延びした友人だと真帆は思ったが、彼から今聞いたことはそんな友人のどこか間延びした装いは本当に表面だけのことで、実はその表の下に幾層思の深い見識と言うか隻眼が隠されているのだと改めて思った。
だから真帆は急ぎバッグから取り出した天鵞絨ファイルを開けて五線譜を窓に翳した時、本当に声が出なかった。
――コバやんが自分に言った事。
真帆は彼に言ったのだ。
だって彼は語の五線譜に引かれた線が大阪の街地図だと言ったのだが、それについてどれくらい確証を持っていたのか。
一か八かとか、その場限りとかそんなのはやはり自分は嫌いなのだ。
だから…
「なぁ、コバやん。なんであの五線譜が大阪の地図やと思ったん?だってさ碁盤上の街通りなんてどこにもあるやんか?」
それに彼は答えた。
――九名鎮、もう一回五線譜見てみぃや。 アルで、『大丸』の百貨店のマークが押し込みで。
(マジか?!)
…で、急いで五線譜を透かす真帆。
その視線の先に太陽の陽射しが差し込んで五線譜を照らす。見つけなければならない、コバやんが見つけていたマークを…。
真帆は黙ってしまった。
そして翳していた五線譜を静かにテーブルの上に置いた。置くと深く溜息をついた。つくと彼女は静かに友人に声を掛けた。
「…いつから知ってたん?」
コバやんが頭を掻く。
「うん、ほら前に僕が翳して透かしが無いか確認したやろ」
「したね」
真帆が頷く。
「あの時、見えたんよ。酸味が掛かった黄身の無い箇所で見えた押し込みの『大丸』のマークがね。それでその事と地図が直感で繋がり言葉が拾い出たのが、――大阪の街地図の可能性が高い、という直感的推理だったんだ」
「それで?」
真帆はコバやんに言う。
「うん、恐らくこれはいつかの時代の『大丸』の包装紙だったんだと思ったんよ。それを考えるとちょっと和紙みたいなやつだから包装紙でプリントが無いということは…」
「
「…ことは?」
固唾を呑んで真帆が友人の推理の答えを待つ。
「それが控えられていた時代となると…、その作詞がされたのが確か戦時中」
「えっ?そうなん?」
コバやんが思わず目を丸くする。
「こちらこそ、『えっ』だよ。九名鎮知らんの?校歌の作詞って戦時中だよ」
「…知らんかった」
真帆は思わずコバやんの様に頭を掻いた。




