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64 檸檬

(64)




 真帆の足は図書館へ向かう。

 向かう廊下の窓から差し込む夏の陽射しの中を真帆は自然と駆けて行く。

 そんな夏の陽射しに味があるのか分からないが、もし若者が夏の陽射しを舐めれば、それはきっと檸檬の酸味が効いたそんな味ではないだろうか。

 青春を生きるということはどこか完全ではなく不完全でもない、言えばそんな未完成で中途半端ともいえる時間なのだから、その時間に感じる味は酸味の効いた味が相応しい気がする。


 ――だってそうじゃないか。


 酸味は悔しくて嬉しすぎて流した涙の味かもしれないし、一生懸命掻いた汗の味かもしれない。いや、それだけでなく大人になりきれず藻掻いた味かもしれない。


 それをストロベリーと言えるか?


 人生の甘さを感じるには君はまだ早い。

 まだ酸味の効いた影を踏んで生きる時間を甘受しないとね、真帆。

 君が踏み出す足先に踏む影跡こそ、君が人生の進んだ先で振り返った時、自分の青春の奇跡と言えるだろう。

 その檸檬味の青春の影が向かう先に君が期待する人が居る。

 恋は薔薇色かもしれないが、友人と歩き続ける空はいつまでも青いままだろう。


 ICタグがセンサーに触れてドアが開く。


 ――君が探す人は何処にいる?


 いや、もう君は知っている筈だ、彼が居る場所がどこなのか。

 それは彼が眠っている場所。

 そこへ行けばいい。

 そして肩を揺らして友の名を呼ぼう。


 ――さぁ、真帆。


 指が触れて肩を揺らす。

 いつまでもこんな関係が続くことを願う祈りを籠めて。


「コバやん、起きろ。出番やぞ」



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