57 芸術
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「でもボードの技術は有った。サーちんぐらいに」
コバやんが見つめる先で彼は首を振った。それは友人の為にあきらめを促す為に。
「…まぁさっきの話の筋は分からなくとも察するに…コバはその加藤の顔が分からずにいて…ひょっとしたら、それが俺じゃないかとコバは言いたいようだ、違うか?コバは昔から何か気になることがあると執拗になっちまうな」
言われてコバやんは黙る。
「じゃぁ、コバ聞くが。何故、俺だと分からない?例え…」
言ってからサーちんは後ろ髪にかぶった白狐の面を指先で軽く叩く。
「こいつを被っていたとしても、サングラスを掛けていたとしてもそれが俺なら一目見ただけで俺とわからないのか?友達だろう?」
コバやんは静かに押し黙った。それは蹲る様に。
――友達だろ?
なら分かる筈だ
(…その通り、サーちんの言う通りだ…)
横で静かに押し黙る友人を見て、サーちんが言う。
「外れだ、コバ。悪いけどな」
言うと彼は立ち上がった。立ち上がる彼をコバやんが見た。
「まぁ、良く分からない話だ。俺には学園の事は関係ない。俺はもうコバと違って別の世界で生きているんだから」
言うとサーちんは被っていた白狐面を取るとそれをコバやんに渡した。
白狐面を手に取りながら自分を見つめるコバやんにサーちんが言う。
「コバ。今日俺が会いに来たのは…何となくなんだが、もうこれからは別々の世界で頑張らないと行けないんじゃないかと思ってね。さよならをしに来たんだ」
「…さよなら?」
コバやんが目を丸くする。
そんな彼を見てサーちんが頷く。
「まぁ俺は労働者、コバは学生。もうそれぞれ違う道を生きてる。もう同じ世界に戻れっこない。それで良いんだ。それにさ、俺…自分の才能を使う場所を見つけてね。まぁ働きながらなんとかそこで夢を見て行こうと思う」
「夢?」
「そう」
コバやんが思わず立ち上がって訊いた。
「それは?」
「芸術さ」
(…芸術)
心の中でコバやんが反芻する。
「コバ」
サーちんは優しく力強く友人に言った。
「俺は今映像で今いろんなことしてるんだ…まぁ映像クリエーターと言っていいのかな。
そうした作品をさ、国際公募とかに出したら認めてくれた人が居てね。ボードもそうだけど、そうした事を含めて…オカンの病気と一緒に向き合って『夢』を希望にして生きていこうと思う」
不意に風が吹いた。それは日中の熱を含み、やがて僅かに肌を熱くする。
いや、肌を熱くしたのはもしかしたら風の所為では無く、夢が持つ熱のせいかもしれない。
「俺達もあと少ししたら成人になる。自分で色んなことを決めて行けるし、決めなきゃいけない。
だからさ、コバ。いつか…俺達が互いに望んだ頂へ上ったら、その時また握手でもしよう。まぁ上手くいくか分からないけどね」
言うとサーちんはコバやんに向かって莞爾として笑った。それは漏れて揺れ動く明かりではなく、街灯の明かりの下で今羽やんにははっきりと分かった。
「それじゃ…コバ、俺行くわ。これから、その人と会うんだ」
「サーちん…」
コバやんは手に白狐面を持ちながら寂しげな表情で友人を見た。しかし友人は笑顔で言う。
「コバ。それ、やるよ。55アイスで買ったらおまけで貰ったんだ」
それから彼は優し気にコバやんを見る。
「また…いつか、此処で会いたいな」
言うと背を向けた。
「もう俺とコバは別々。だから俺の背を追って来るな」
そして歩き出して振り返った。
「互いに望んだ頂で会う迄な」




