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49 不意

(49)




『不意』とは辞書を引けば、


 ――思いがけないこと


 と、意味が成されている。 


 ならば正に真帆がそうだったといえるかもしれない。いや、しかしその時が『逢魔が時』ならばそれはまた幾分か致し方ないことかもしれない。

 つまり…


 ――帰る時に帰らねば魔に遭遇する。

 そんな時を逢魔が時と言う。


 真帆はコバやんと別れてから直ぐに自宅には帰らなかった。彼女はその足で向かったのである。


 ――55アイスクリームに。


 それは仕方のないことなのかもしれない。暑い夏の最中である。冷たく甘い物に引かれるのは、誰でもあることじゃないか。

 それがましてや若い女子高生ならば猶更特に。

 そしてそこで真帆は『魔』に遭遇したのだ。


 それを感じたのは真帆が佃煮屋の自宅に戻り自分の部屋で通学用バッグを開いた時だった。

 その中に確かに『不意』があった。

 真帆はバッグのジッパーを開けた時、不思議と綺麗に仕舞われている天鵞絨(ビロード)ファイルを見た。

 別に異常がある訳でもない。どことなくすました顔で正常がそこにある。

 だが、直感が何か異常を捉えているのだ。真帆はまずバッグの外観を見た。

 どこもおかしい所は無い。これは学校所定のバッグだ。


 ――ただ幾分か綺麗ではあるが…。


 真帆がそう思った瞬間、もう一度バッグを見た。見て握り部分を見た。

 そして気づいた。


 ――あまりにも握りが綺麗すぎる。


 真帆は三年に進級した時、通学バッグを新調した。それはバッグの握り部分の合皮が特に経年劣化で変色し破れたからだ。

 学校のバッグは男女共同じデザインだ。名前の刺繍は特に無い。

 しかし今自分が見ている新調したこのバッグは使用した感が無く余りにも握りが綺麗すぎた。

 もう一度バッグの中を見た。バッグの中には自分がコバやんに会う為にバッグに仕舞った天鵞絨ファイルが物言わず入っている。

 それも寸分変わることない。

 これが精緻な偽物でもなければ自分が持つ本物に違いない。

(…あっ!?)

 瞬間、閃くものがあった。真帆は急ぎ手を差し込んで天鵞絨ファイルを取り出すと、ベッドの上で広げた。

 広げて五線譜を見た時、真帆は正に青天の霹靂を切り裂くような雷鳴に打たれたと言ってもいい程の衝撃を躰に強烈に感じた。

(これは!)

 そう、ベッドの上で広げられて網膜に映る五線譜は真帆自身が裏側にニコちゃんマークを描いた五線譜で、まさにその裏側に描いたニコちゃんマークが自分を見て真帆に微笑んでいたのだった。








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