47 友人
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(凄いなんてもんじゃないんちゃう?例えその推理が外れていても、こんなちっぽけな情報で想像力を働かして物事の全体を見て、何となく仮定づけれるなんてさ…それも街の地図なんて誰も考えないよ)
真帆は思わず――見事、と言いたくなったが、あくまでコバやんが言った事は確証の無い、まだ想像の域なのだ。
だから喉迄出てきた言葉を飲み込んで、もう少し探偵の推理に付き合いたいと思い疑問を投げた。
「…でもさ、コバやん。今さぁ、言ったよね。何となくこの五線譜の先にそんな碁盤目状の地図が出来上がるんじゃないかって。それってさ、何でそう思うん?」
真帆は後ろ手にヘアゴムを手に取るとそれを解いて髪を自由にした。
すると雑木林を風が吹いて、自由になった黒髪が探偵の知性の輪郭を優しく撫でるように広がってゆく。
「…うん、そうだよね。実はさ、子供の頃、こんな遊びをしたことがあって。大きな図形を紙に書いて、それを鋏で四角に切ってバラバラにする。それをさ、今度はもう一度並べて元の形にしてゆくんだ」
「それって…つまり、パズル?」
コバやんが頷く。
「そう、パズル遊び」
「九名鎮はそんな遊びしたことある?」
「…いや、無いかも、ごめん」
少し申し訳ない表情でコバやんに言う。言ってから真帆が疑問を再び問いかける。
「でも、なんであれが地図やと分かるん?」
言われてコバやんは少し真帆から視線を外す。外した視線に何か湿りが含まれている。
「…道路地図を鋏で切ってパズルとして遊んだことがあってね。
ほら、自分で書いた図形ばかりじゃ飽きるやろ?だから誰かが地図を買ってきて、それを鋏で切ってパズルにしたんよ…その時は学童保育に行ってたけど、沢山みんなでやったから楽しかったけどね」
「…学童保育?…」
頷くとコバやんが間を措いて真帆に訊く。
「そう。僕さ、子供の頃から両親共働きだったから家で一人になるといけないから、放課後とか休みの日とか学童保育とかで過ごしてたんよ。
だから学童保育で良くこうした遊びを一人でしてた。まぁ…孤独を紛らわす為にね。
それでさ、…何となくそんな経験から、今言ったようなことを想像できたわけだよ」
淡々としゃべるコバやんの言葉を聞いて、真帆は何となくコバやんと言う人物の心の深淵を見た気がした。
そこには一人で親の帰りを待つ少年コバやんの孤独。
真帆は何とも言えない酸っぱさを鼻の奥に感じて、それからどこか慰める様に言った。
「孤独はさ、皆あるよ。コバやん」
その一言にコバやんの肩がピクリと反応する。
真帆は言う。
「この五線譜はコバやんの言う通り、誰かが書いた地図を切ったパズルの一部分だとウチは信じる」
コバやんは外していた視線を戻して真帆を見て微笑した。見れば真帆の髪が風に揺れている。まるで孤独を優しく包み込む様に。
――友人は良い。
この時、コバやんは本当にそう思った。
思ったから、自然と言葉が出た。
「孤独で思いだした。それで加藤だよ」




