43 惰眠
(43)
意外にもコバやんは学園に居た。
真帆はチャットの返信を見ると寝起きの髪に櫛を入れ、それから髪を上げてヘアゴムで止め、制服に着替えて通学バッグに独唱譜を詰め込み、自宅の佃煮屋の暖簾を潜って猛ダッシュで学園へ向かった。
天神橋商店街をダッシュする真帆。
振り返る通行人の視線に真帆はどう映るか?
(走れっ!!)
別に猛ダッシュする理由はない。学校は夏休みなのだ。
それでも何故か真帆はコバやんのチャットを見てから気分と言うものが猛烈に爆発を抑えきれない。
コバやんは唯、
――今は学園の裏林のベンチに居る。
と、返信していただけなのだが不思議とそれが真帆を猛ダッシュしないではいれらない気分にさせた。
理由は?
意味は?
そんなことを大人は聞くかもしれない。
いや、理由とか意味とかそんなのは自分には関係無い。
唯、自分の思うままに息を切らせて無性に走り出したくなった。
それだけなのだ。
それで十分じゃないか?
私は私。
僕は僕。
俺は俺なら、
ウチはウチ。
学園の正門は閉じらていたが通用門が開いていて、真帆はそこから学園に入った。
入ると学園の裏林へと進んでゆく。
学園には校舎裏に都会には意外と思えるほどの雑木林が在る。
この雑木林は戦後に校舎が建てられた時から学園の敷地になっており、その雑木林には小さな遊歩道が在って、そこに点在するようにベンチが置かれている。学生がいつでもその雑木林を散歩できる様になっているのだ。
真帆は一度もまだ行ったことは無いが、友達に言わせると京都の銀閣寺と南禅寺を繋ぐ「哲学の道」に雰囲気が似ているらしい。
そんな遊歩道に真帆は足を踏み入れ、進んでゆく。
何をするためにか?
勿論、この遊歩道でコバやんに会う為である。
ではコバやんは何処に?
丁度二つ目のベンチ過ぎた時、真帆にはその姿が見えた。コバやんはベンチに身体を投げる様にして眠っていたのだった。




