40 蹴りの行くへ
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空から振り下ろされた甲賀の右足蹴りが加藤の左腕に当たった。
そう、二人には見えた。
しかし、加藤はいつ背負っていたバッグを手から離したのか、僅かに左手の拳を軽く上げて加藤の蹴りを見事に防いでいた。
しかし甲賀はそれを瞬時に理解したのか、今度は蹴りを入れた右足を後方へと弧を描くように反転させると、今度は体の軸をうまく利用して反転させた蹴り足を軸にして勢いよく反対の左足でふくらはぎを狙って足を払いに行った。
まるで流れる様な一連の動きに真帆は思わず、
――見事!
と、心の中で叫んだ。
コバやんも甲賀の見事なまでの反射神経と身体能力に拳を握って声を漏らす。
バァン!
見事、甲賀の足の甲が加藤のふくらはぎにあたった音が響いた。
「…やった!!」
コバやんが叫ぶ。
だが、しかし…!?
「…っ痛ぇ!!」
痛みに声を出したのは甲賀だった。それだけでなく痛みに声を出して足の甲を手で押さえる様に辺りをぴょんぴょんと飛び回る。
一体、何が起きたのか?
「隼人!!」
声を掛けて真帆が甲賀の下へ駆け寄る。真帆が駆け寄ると甲賀は地面に尻を付いて、靴を脱いで足を必死に摩っている。
「隼人!!マジ、大丈夫?」
甲賀は靴下を脱ぐと甲を見る。見れば甲が赤く腫れている。まるで何か固い物でも蹴った時のように腫れていた。
「…腫れてるやん、ちょ、大丈夫?」
甲賀はそれに首を縦に振る。
「九名鎮、大丈夫。まぁ、何かいきなり何も知らずにコンクリートの柱を蹴ったような感じだけどな」
少し苦痛を浮かべる甲賀。だが片方裸足立ち上がろうとする。その甲賀に肩を貸すコバやん。
その姿を加藤がサングラス越しに微笑を浮かべている。それを見て真帆が言う。
「何が可笑しぃん?なぁ?」
怒気を含んだ声に加藤がゆっくりとズボンを上げる。すると加藤のズボンから見えたのはプロテクターだった。
「どうやら、甲賀君の蹴りはこのプロテクターに当たったみたいだね」
言うと加藤は地面に落ちた自分のバッグを拾上げた。それからゆっくりとジッパーを開けるとそこから何かを取り出した。そしてそれを地面に置いた。
その動きを三人が凝視している。
加藤が地面に置いた物。
それはスケートボードだった。




