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四天王寺ロダンの青春  作者: 日南田 ウヲ
青き春と炎
24/107

24 青天の夢

(24)




 スマホに着信が着く。

 メッセージアプリだ。

 真帆はアプリを開く。開くと未読から今しがた送られて来たメッセージを確認。差出人は“コバやん”だ。


 ――九名鎮、悪い。

 チャリがパンクして、今日はメトロ。

 遅れるから正門で待っといて。


(なんや、遅刻か)

 真帆はスマホを閉じると待ち合わせ場所のコンビニから空を見た。見上げると彼女の長い髪が揺れて肩から白のピンストライプのシャツに流れ落ちて行く。

 大阪の今日の空も抜けるように青い。大阪は都会だが、それでも抜ける様な青空がこうして時折見える。

 それは北に六甲山、東に生駒山と言う地形に囲まれて大阪湾へと風が抜けるためだろうか、雲も今日は見えない。

 つまりそれは影が無く暑い一日にあるという意味だが。

(まぁ…、しゃーない。先に行くか)

 そう思ってコンビニを出た時、目の前を甲賀がズボンのポケットに手を入れて面前を歩き過ぎようとしている。

「お、隼人やん!!」

 呼びかけられて甲賀が振り返る。

 どこか眠たそうな顔つきだ。

「おや、寝不足?」

 甲賀が頷く。

「…いや、ほら四天王寺から帰ってさ、色々ネットで調べちゃって。そしたらまさかの深夜だよ。もう寝てへん」

 最後は関西弁で真帆に言う。それを聞いて真帆がくくくっと笑う。

「何よ、あんた。もうすっかり四天王寺マニアね」

「…かもしれん」

 言ってから歩き出す。コンビニから学校の正門までは五分と掛からない。曽根崎通を行けば、後はふたつ先の角を曲がるだけだ。

 甲賀がポケットから指を出してくるくると回しながら、真帆に訊いた。

「今日も特講(とくこう)?」

「そう、カマガエルのね」

 真帆がふふんと鼻を鳴らす。それを見て甲賀が言う。

「大変だなぁ」

「まぁね、でも。頑張らないとさ。大阪N大にいけないしね」

「そっか。真帆はそこ志望か」

「そう」

 甲賀が眼鏡のフレームに手を触れて真帆を振り向く。

「それで、それからは?」

「それから?」

 真帆が視線を甲賀に向けて訊いた。

「そう、それからさ。いつまでも学生ではいられないし、その後だよ」

 真帆が黒髪を手で流す。

「まぁ…できれば、音楽の世界にいけたらだけどね。夢だけど。今は」

「成程ねぇ」

 甲賀が軽く頷く。

「それで隼人は?」

「俺?」

「そう、俺よ」

 イヒヒと真帆が笑う。

「俺はビジネスをする。ユニコーンのような企業を起業して世界を相手にする」

 聞いて真帆が顎に手を遣る。

「へぇ。意外、御曹司だからそのままお父さんの企業で働くのかと思ったけど。でもさ、どんな分野で起業するの」

「一応決めてる」

 言って指を立てる。

「どんな?」

 興味津々の眼差しが甲賀の意思を捉える。指を立てた甲賀は、それをそのまま空へと伸ばして言った。


「――世界の天候気象を相手にするビジネスをするのさ」


 甲賀の指先は空を指している。

 そんな彼の指先を追うと真帆は思った。

 それは何処までも雲一つない青い空。それが甲賀――彼の目指すビジネスの世界。

 彼の将来と言うのは自分のようなどこか夢っぽい『夢』ではなく、何か全てを突き動かすような志があって、青天の霹靂から湧き出て来るなそんな夢のように真帆は感じた。


 ――おーぃ


 そんな二人の会話を割るように背後から声が聞こえた。ほぼ同時に二人が振り返ると駆け足で迫りくるマッチ棒が居た。

「お、コバやん。お出ましやね」

 真帆がイヒヒと笑う。甲賀も手を挙げてコバやんに応える。

 二人に追いつくとコバやんはひーひー言いながら一息ついて――すまん、と手を合わせて詫びた。

 しかし詫びるともうそれまでの事は帳消しだと言わんばかりに二人の先頭に立って歩き出した。

「こらこら!!」

 その姿を見て真帆が言う。

「コバやん、あんた一番後やんけ」

 言ってから甲賀に合図を送る。甲賀も口元に微笑を浮かべて二人の後に続いて、歩き出した。


 そして三人が学園の正門に着いた時、そこである事件が起きていたことを知るのである。


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