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四天王寺ロダンの青春  作者: 日南田 ウヲ
はじまりの跫音
21/107

21 密室の三人

(21)




 三人は学習室の一室に入り込むとドアを閉めた。

 図書室のロケーションだが、先程コバやんが昼寝をしていた書棚側と反対側に今三人が入り込んだ六人部屋の学習室が四部屋あり、その間に一般読書席が並んでいる。

 今は夏休みなので誰も居ないが、コバやんと真帆が入っている朗読倶楽部が活動する時は今三人が入り込んでる学習室が部室になる。

 その部室である学習室で、今コバやんは真帆から先程起きた変事の説明を三人の目の前に置かれた天鵞絨(ビロード)のファイルの前で聞き終え、頭髪をじょりじょりと掻き終えたところだった。


「…でさぁ、コバやん。その加藤って知ってるん?」

 真帆は率直に訊いた。訊かれて彼が首を傾げるところを見ると、どうもその名に見覚えが無いのだということは他の二人には明白に見えた。

「だね…」

 より断定さを増す答えを真帆へコバやんが打ち込む。

「ほんならさ、誰なん?加藤(あいつ)って?」

 語調を強めて真帆が髪を揺らしてコバやんに言う。

「いや…言ってもねぇ。僕が見た訳じゃないし…」

 彼は困った顔して、ちらりと甲賀を見た。見られた甲賀も黒縁眼鏡の奥で苦笑いする。

「俺も真帆が待ち伏せされた後、その場所に戻ったけど誰もいなかったよ。もしあの場でもう少しこの事をきけたら、周囲を探してみたかもしれないけどね」

 最後の方では少し後悔気味に甲賀が言ったので真帆は手を合わせて「御免…」と小さく言った。

「あの…聞くけどさ」

 すまなさそうな表情の真帆に甲賀が言う。

「ちなみにそのファイルの中には何があるの?」

 言われて真帆はファイルを開けた。

 開ければそこに酸化で黄身が掛かった五線譜が透明ファイルに閉じ込まれていた。確かにそれは直筆だった。今注視すれば確かに田中イオリと書いてる。

「ああ、是か、そう言えば転校して来た時に校長室で挨拶した際、見た記憶があるな」

 甲賀が言う。

「そう?」

 真帆の問いかけに甲賀が頷く。

「特段、何も深い意味がある様なものには見えないけどね…」


 ――なのである。

 故に、なぜ真帆があれ程加藤にと言う人物に執拗にこれを狙われたのか意味が分からなかった。


「でも、九名鎮おめでとう。凄いのに選ばれたんだな」

 甲賀が眼鏡の奥で満面の笑顔で祝福する。心の底から嬉しそうだ。

「それで…職員室に連絡入れとく?不審者がいるって?」

 真帆がファイルを閉じて二人を見る。

「不審者なんかどうか…唯、本当に此処の学生で劇の練習をしてるだけかもしれんし、だって警備にも引っかからないんだからさ。それにそのファイルを頂戴と言っただけで窃盗とかでもないだろう?」

 甲賀が答える。


「しかし、九名鎮」

 コバやんがファイルを仕舞う真帆に言う。

「…色んな情報があるよね。狐の白面――まぁ白狐だけど、それに赤い更紗、それだけじゃなく風車に、見事なまでの身体能力。後は…まぁ『おめでとう』というべきなんだけど、真帆が独唱者(ソリスト)として選ばれた証である学園伝統の独唱(ソロ)譜である校歌の作詞者――田中イオリ…」

 言ってからコバやんは「うーん」といって頭を激しく掻いた。

 彼は考えを巡らしているのか懸命にじょりじょりと音を立てながら激しく頭を描いていたが、やがて手を頭から離すと首に当てて、ぴしゃりと音を立てた。

「…ん?で、どうなん?」

 その動作を見ていた二人が固唾を呑んでいる。その二人に向かってコバやんは言った。

「ようわからん」

 思わず二人が席から転げ落ちそうになるのを見るとコバやんは大きく笑った。

 笑いながら

「いやぁ、アッシにはどうもようわからんわ」

 と、いつの時代の言葉か分からぬまま、真帆の話題を一度脇に置いた。置いて、今度は甲賀に向き合う。


「それで甲賀君。未希ちゃんの事やね」


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