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四天王寺ロダンの青春  作者: 日南田 ウヲ
はじまりの跫音
19/107

19 温故知新

(19)




 渡り廊下を歩き、旧校舎の職員室を過ぎると脚立を抱えた工事の業者とすれ違う。

 そこを過ぎて奥に進むと大きく図書館と書かれた表札が見え、その扉にカード型の学生手帳で触れる。ICタグに反応してドアが開くと司書が居る事務フロアが見え、読書室と書籍棚が見えた。

 図書室は奥まで見通すことが出来るが、今は夏休み。普段の昼休みや下校時に比べて学生は誰一人も居ないのは当然だが、逆に目当てのコバやんが居ないことに真帆は不思議な顔をした。

 その気持ちを押すように甲賀が言葉を誰も居ない図書室に押し出す。

「誰も、居ねぇじゃん」

 言葉に押し出されて真帆が部屋を歩き出す。

「おかしいなぁ」

 真帆は念のため部屋を一望して司書が居る所に戻ると声を掛けた。

「あのぉ、コバやん、来てない?」

 まるで馴染の客でも探すような口調で訊くと白髪の混じりの司書は書棚が並ぶ処を指差した。そちらを振り向いて真帆が言う。

「…あ、あっち?」

「恐らく、寝とるんちゃうか?」

「寝てる?」

「まぁ探してみ」

 そんなやりとりをすると指差された方へ歩く。歩く先は本棚が高く並んでいる一角で、電灯をつけなければ少し薄暗い。見上げる本棚は多くの蔵書で一杯だ。

「なぁ九名鎮…俺、実は初めて図書館に来たけど、結構一杯本があるんだなぁ、それも大阪の古い歴史関係の本が多い、…俺が指差してるとこだけでも昔の生活史とか、戦後史とか…、何やら色んな大阪に関連したものがあるんじゃねぇ?」

 後ろからついてくる甲賀へ真帆が振り返ると言った。

「隼人あんたさ、国際ビジネスやん?図書館利用して勉強とかしたこと無いの?」

 思わず、え?と言う表情になる甲賀。

「俺?」

「そうよ、此処にだってこれから試験に必要で調べないといけないことぐらいあるでしょう?」

 真帆が言うや、甲賀が指差していた人差し指をそのまま二人の視線上に持ってゆき、軽く二度指を振った。

「…嫌、多分無い。だってさ、俺に必要なのってこれからの未来で必要な事、――つまり新しいテクノロジーとか地球環境問題とかそんなグローバルな分野だからさ。もしここに来てそうした分野を探してもなさそうだし。やっぱりざっと今見た所、新しい分野の書籍は無いし、俺は来なくてもいい場所かもしれん」

「温故知新」

「何それ?」

 甲賀がきょとんとする。

「――昔の事を調べて,そこから新しい知識や見解を得ること。ふるきをたずねて新しきを知る、そういう意味よ。隼人、そういう気持ちで未来を切り開いてよ」

 隼人は聞いて口笛を鳴らして頷く。

「了解」

 どこか馬鹿にしてるような尊敬してるようなそんな意味深に甲賀が頷いた時、自動電灯(サーチ)が点いて周囲が明かるくなった。

 並ぶ本棚が巨大なモニュメントのように真帆の視界に映った瞬間、そのモニュメントの隙間に長い長身を投げ出すように横たえている巨大なマッチ棒の姿が見えた。


「おい!!あそこ」


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