15 最後の質問
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――最後の質問
(…何やったけ)
真帆は思わず顧みる。
顧みて考える程の時間は経っていないのだがすごく時間が過ぎているように感じている自分が居る。
「田中イオリって誰?だったよね」
(あっ…そうだった)
真帆は顧みている自分を現実に引き戻す。引き戻すと加藤を見た。
加藤は折った指をひらひらとすると今度は人差し指を突きだして真帆の天鵞絨のファイルを指差した。
「君、音楽家の学生だよね。学校の校歌を誰が作詞したか知らないんだ?校歌を作詞したのが田中イオリ、僕の祖母なのさ。そしてそこに仕舞われている独唱譜である五線譜こそ僕の祖母の直筆なの」
(えっ、そうやったん?)
真帆は意外ともいえる事実を知った。
正直、学校の校歌を誰が作詞作曲したかはほぼ興味が無いし、音楽史と言う歴史問題にも出題されない事柄だから、ほぼノーマークに近い。
もしかしたらこのファイルを開ければそこに作詞者名があるかも知れないが、それで初めてこんにちはとなるだけだ。校歌の作詞者名を知っていることで大阪N大の声楽科に通れるのならば、絶対暗記でもするが、普段歌っている自校の作詞者名を覚えている学生なぞ、全国の学生でも何人いることか。
(じゃぁ校歌の作詞者が――田中イオリ)
真帆はその人物名を反芻する。
(…そしてその孫が加藤)




