12 加藤段蔵、現る
(12)
狐の白面が指を四本にする。
――さぁ、妖君。小気味よい応酬の続きをしようじゃないか。
真帆の意識モードが変わる。
先程迄、急くようにマッチ棒君へ会うべく駆け出していた真帆の気持ちは、先程自分に吹き付けた強風の所為か、その気持ちはどこかに飛ばされたのかもしれない。
いや…それよりもこの不思議な体験という話のネタをしっかりと押さえて、後であのマッチ棒君に話したいという難波っ子の性格が出てしまったいるのかもしれない。
逢魔が時と言うのは
帰る時に帰らねば魔に遭遇する。
そんな時を逢魔が時と言うのだが、ひょっとすると難波っ子には少し意味が違うのかもしれない。
――おもろいネタなら命貼るでぇ
という、難波っ子の性根が聞こえてきそうだ。
「ほな、答えてくれるん?」
真帆の強い声音が飛ぶ。
その声音に指を折って応酬する狐の白面。
「いいよ、先ず一つ目」
手を伸ばしてそれからゆっくり指を折る。
「僕の名は加藤段蔵、三年演劇科の生徒さ」
狐の白面は迷いも無くはっきりと言った。
――かとうだんぞう?
(意外!!このご時世に何と和的な名前なん)
真帆の目がパチリと瞬いた。




