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四天王寺ロダンの青春  作者: 日南田 ウヲ
END OF SUMMER 夏の終わり
100/107

100 星空

(100)




 強く噛みしめた奥歯からにじむ鉄分の含んだ血の味がした。

 渡り廊下の手すりに体を寄りかけながら、コバやんと佐山は二人、月を見上げていた。その月の下に無数の星が見えた。

 大都会の大阪の夜空にもこんなに輝く星が見えるのかとコバやんは思った。思うとその空の下を飛び長い帯が見えた。

 それは『炎の竜(ファイヤードラゴン)

 大きな帯のついた巨大な凧に似ていた。竜の身体は大きな凧みたいなものだ。それが空の下をひらひらと待っている。勿論、小型のドローンに引っ張られているのだが。


 ――小林君、あそこはね。午後二十一時過ぎると、生駒から強風が市内へ向かって吹く。その風に凧でも乗せれば、ずっと上空を飛び続けることができる。


 甲賀の言葉がコバやんの心の中で浮かぶ。それに寂しくも満足して笑う。ここにも青春に吹いた風を掴んだ友人が居たのだ。

「いいのか?コバ」

 その横で同じように夜空を見ている親友が言った。その言葉に、コバやんは頷いて言った。

「いいんだよ、僕も見たかったんだ。『炎の竜(ファイヤードラゴン)』が空を飛ぶところ」

「本当かよ」

 言ってから赤く腫れあがった頬を撫でて佐山が言った。

「本当さ」

「…そうか」

 言うと佐山は腕時計を見た。

「もう、少しだな」

 腕時計を見たコバやんが佐山に言う。

「あれ、時計してるやん。サーちん」

「給料で買ったんだ。いいだろ、これ?」

 コバやんが顔を突き出して、腕を伸ばした佐山の腕時計を見る。

「げっ、これS社の最新版?」

「そうさ」

 言って佐山が笑う。

「頂戴。サーちん」

「なんでだよ!!」

 佐山が笑いながら引っ込める。

「いいやん、だってサーちんはまた給料もらえるやん。またそれで買えばいいやんか」

「阿保かっ、それ言うなら。コバ、働いて買え!」

 腕を寄せるコバやんから腕時計を守る佐山。だがコバやんはあきらめない。

「うん、働いて金貰うから、先に頂戴。それ!!」

「無茶苦茶言うな」

「無茶言うねん。言ったもん勝ちや!!」

 二人の掛け合いが最高潮へ向かった時、突然、空に光彩が放たれた。それに二人が振り返る。

 そして彼等は見た。

 いや、大阪中の人が見たかもしれない。

 夏の星空の下で長く伸びる巨大な『炎の竜(ファイヤードラゴン)』を


 二人が何といえない感動に震えた。

「いいなぁ」

 佐山が言う。

「うん、良いね。やっぱ芸術(アート)って」

 コバやんが佐山に語り掛ける。

「これからまだ続けてくれる?芸術(アート)

 佐山は静かに頷いた。

「…なあ、続けるよ。なんせこの夜は俺のキャンバスみたいなもんだ。だからこんな『炎の竜(ファイヤードラゴン)』はできないけど、映像クリエータとして立派になるよ、俺。そしてオカンを…いや、おふくろを喜ばすんだ」

 それを夏の夜風にアフロヘアを揺らしてコバやんは微笑した。

「うん、サーちん。約束やで」

「コバもな」

 言うと互いに握手をした。

 そしてコバやんは言った。

「これで僕も共犯だ。だから秘密にしとかないとね。捕まるし」

 それを聞いて佐山は笑った。

「コバ、最初からその考えだったんだろ?ほんま友達思いやな。でも警察もどうするのか、証拠も消えてしまった『炎の竜(ファイヤードラゴン)』、犯罪にできるのかな?」

「さぁ、どうかな甲賀君と自転車交換しただけで捕まえられなかったから…意外とおおめに見てくれるかも」

「かもな」

 言うと佐山とコバやんを二人顔を合わせて笑った。彼らの笑顔の向こうに星空がいつまでも続いている。

 だが、コバやんはその星を見て思った。

 まだ解決すべきことがあるのだ、と。だからコバやんは佐山に言った。

「サーちん。後は僕に任せて、そして――イカヅチとモモチさんの正体が誰かということはね」





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