コミュ障喫茶
「あ……いらっ……しゃっ……せ……」
たどたどしく聞き取りにくいこの店の挨拶に出迎えられると、愛しの我が家に帰ってきたかのような安心感を覚える。『喫茶ふりいず』……おそらくこの世に1店しか存在しないコミュ障のコミュ障によるコミュ障のための喫茶店である。
「あ……ごち……ご注文はお決まり……あ……ははっ……いや……えっと……ご注文……お決まり……したら……押してください……その……これ……ボタン……す……」
黙ったまま軽くうなずく。別に彼の接客に不満を抱いたわけではない。ただ私もまた筋金入りのコミュ障だというだけだ。本当ならば相手の緊張をほぐすために、とっておきの小粋なジョークを披露してウインクの一つや二つ、チップ代わりに弾んであげたい気持ちは山々なのだが。
しかし、この店ではどんなに口下手であっても許される。客はもちろん、店員も例外ではない。コミュ障だっておしゃれなカフェに行きたくなることだってあるし、コミュ障だって喫茶店でバイトしてみたくなることだってあるのだ。いざ口を開けばフリーズしてしまう人々が、あらゆるしがらみから自由になれる場所、それが喫茶ふりいずなのである。
さて、もうしばらくこの居心地のいい雰囲気を堪能していたいところだが、いつまでも目の前の彼を待たせているわけにはいかない。鼓動にかき消されそうになりつつ、錆びついた声帯の扉をこじ開けて合否を伝えることにする。
「あっ……いいです……えっと、あ、そのいいってのはだめじゃなくて合格っていう意味で……お疲れ様……です……どうぞ座って……その、感じで……無理に……がんばらなくていいから……いや、がんばっちゃだめとかではないけど……スムーズに話せり……話せるようになりたいなら……それはすごいことだし……応援するし……でもそれは全然義務じゃないみたいな……えっと……なんていうか……君がやりたいようにっていうか……君のままでいいから……とにかく……ああ……その……これから……も……よろしく……おねが……しま……す」




