牛丼特盛と豚汁、そして単品の白飯(並)。この注文が何を意味するのか、IQ180万のあなたなら分かるはずだ。この注文の真意を知った時、あなたは戦慄するだろう。
「すし家の牛丼♪」のCMでお馴染みの大手牛丼チェーン「すし家」でアルバイトをしている三百汁 偽優希さんは、その日は1人で業務をこなしていたという。今回のお話は彼から提供していただいた怪談である。
夕方のピークが過ぎて少し暇になった頃、1人の女性客が入店した。ここは「何名様ですか?」や「こちらの席へどうぞ」といったやりとりをせず、客が勝手に席に向かうシステムなので、席に着いた女性にお茶を出したのがこの女性との初めてのやりとりだった。
「いらっしゃいませ、お茶でございます。ご注文がお決まりになりましたらそちらのボタンでこのオレを呼べ」
「ありがとうございます」
20代後半くらいのキレイな女性だった。おっぱいがこぼれそうなほど胸元の開いた服に、ワカメちゃんを彷彿とさせるスカートからはみ出したデカパンツ。正直「なんだコイツ」と思った。
「おい」
お茶を置いて去ろうとする私を女性が呼び止めた。先程までののほほんとした顔とはうってかわって眉を85°までつり上げ、両の黒目が外側を向き、口から4枚の舌をだらんと出している。その状態で1分半静止した後、女性が口を開いた。
「牛丼特盛と豚汁、あと白飯の並で」
「かしこまりました」
「お願いします」
私は不思議だった。この女性、いったい何なんだ。牛丼と豚汁と、よりにもよって白飯を単品で頼むだなんて。本当にどういうことなんだ。意味が分からない。
私は作りながら真剣に考えた。
白飯を1チームとして見ているから変に感じるのではないか。牛丼チームと豚汁白飯チームに分けてみるとしっくり来る。この女性は2食分食べるということなのだ。そうだ、そうに違いない。
いや、待てよ? そういえば特盛ってご飯の量は大盛りと同じだから、肉がけっこう多いんだよな。もしかしたらご飯をたくさん食べたいけど、大盛り以上の量のご飯がないから、特盛の余った肉で白飯を食べるという魂胆なんじゃないか? 豚汁は普通に飲みたかったから頼んだんじゃないか?
ていうか、この女性めっちゃ食べるやん。いや、私も頑張れば特盛と並くらいは食べられるけども、頑張らないと無理だし、わざわざ食べようとも思わないし、豚汁まで飲めるかは分からない。
なら牛丼大盛りと牛丼並を頼めばいいじゃん。それじゃダメなのか? トータルで高くなるのか? でも肉の量も多くなるから損ではないと思うが。もしかして少ない量の肉でご飯をたくさん食べられるタイプの人なのか? 私も小指の先っぽくらいの明太子でご飯何杯でもいけるからその気持ちは分かるぞ。
いや、なら大盛りと白飯でいいよね。わざわざ特盛にして肉増やさなくても。それか大盛りだと足りないのか? わがままなやつだな。って勝手に何言ってんだ私は。お客様に対して何言ってんだ。
でもたくさん食べたいだけなら鶏そぼろ丼か何かを注文すればいいわけで、わざわざ牛丼と白飯にした理由を考えなければいけないんだ。この組み合わせでなければいけない理由を。
もしかして、丼物を2つ頼むほどの財力がないのか? 貧乏なのか? いや、貧乏なら外食に来て2人分も注文しないか。
ん? 待てよ? 2人分⋯⋯?
そうか! 2人で来ていて、もう1人は後で来る予定なんだ! そう考えると辻褄が合う! どちらかが牛丼特盛で、どちらかが豚汁とご飯を食べるんだ。「すぐ行くから先に2人分頼んでおいて」と彼氏か誰かから頼まれているに違いない!
よし、牛丼と豚汁完成! 白飯よそって⋯⋯発進!
牛丼特盛、白飯と豚汁の2チームに分けてお盆で運んでいく。ホールに出ると、女性の向かいに同年代くらいの男性が座っていた。やはり私の思った通りだ。ビンゴだ。ざまみろ。愚か者めが。
「お待たせいたしました〜」
「ありがとう〜」
女性が嬉しそうに言って手を出した。どちらを渡せばいいのだろうか。
「えーと、まずこちら牛丼特盛です」
「ありがとう〜」
女性が嬉しそうに言って私が差し出したお盆に手を伸ばした。こっちだったか。彼氏が豚汁と白飯か、牛丼屋に来てこれってけっこう珍しい人だな。
「あと、豚汁とごはんですね〜」
「ん」
男性が自分の座っているところの机を指さして言った。置けということだろう。正直ムカついたが、こんな客は山ほどいるのでいちいち態度には出さない。
「あばよ」
伝票を女性のおでこに貼り付けて私は厨房へ戻った。男性にもお茶を出さなければならないからだ。あんなやつでも一応客だから。
「すみません遅くなりました⋯⋯⋯⋯えっ!?」
男性のもとにお茶を届けに来た私はとんでもない光景を目にした。男性のお盆にあった豚汁が女性のお盆に移動しており、女性が牛丼と豚汁を交互にモリモリ食べていた。そして男性は白飯をひたすら食べていたのだ。
私は恐怖した。こんな事があっていいのだろうか。早くこの2人の前から去らねば。そう思った私はお茶を男性に投げつけ、その場を去ろうとした。
「おい」
女性が私を呼び止めた。女性の方を向くと、女性のおっぱいがついにこぼれていた。女性は先程と同じ顔をしてまた静止した。おそらくまた1分半かかると思うので、私はおっぱいを見ることにした。
放り出されたその乳房には赤い塗料で文字が書き殴られていた。よく見てみると、右乳にBEGIN、左乳に神と書いてある。BEGINは神ということか。それは私もそう思う。でもなぜ乳に書くんだ。もしかしてBEGINのライブで脱ぐのか? 脱ぐつもりなのか? それかもしかして今日行ってきたのか? その帰り? そんなことを考えていたら1分半経ったようで、女性が口を開いた。
「ビールください」
「瓶しかありませんが、大丈夫ですか?」
「良いに決まってんだろうがアホ! ハゲ! うんこバズーカのペラペラスライムめ! 輪切りにしてやろうかこのレモン頭侍船長青二才!」
「かしこまりました」
私は冷蔵庫に向かいながら思った。コイツ、彼氏に白飯だけ食わせておいて、自分だけビールまでいただくつもりなのかよ。彼氏もなんか言えよな。
私はビールを全力で振りながら2人が待つテーブルに持って行った。
「お待たせいたしました、ビールでございます」
「あんがとよ」
そう言って男性が私からビール瓶をひったくった。マジで? お前が飲むの? 白飯でビール飲むの? いやいいけどさ、誰がなにをどう食べて飲んでいようと我々店員にはとやかく言う権利はないけどさ、あんたら控えめに言って都市伝説だよ。今他に3人客がいるけど、3人とも絶対この後誰かに話すよ。それが広まって都市伝説になるんだよ。
「少年よ、いつまでそこに立っておるのだ」
ワカメパンツおっぱいBEGIN女が私に向かって言った。店員様に向かってなんなんだコイツは。
「早う茶を持って参れ」
あ、お茶ほしいのか。お茶ほしいのか⋯⋯
なんでこんなやつにお茶あげなあかんのや!
「オメーはションベンで十分だ!」
私は女のコップをしっこで満たした。まだ出そうだったので残りは全部牛丼にかけてやった。
「つゆだくだぁ!」
女性が嬉しそうに叫んだかと思うと、眉毛と目と鼻と口が吹き飛び、またたく間にのっぺらぼうになった。ヒゲだけが残ったのっぺらぼうだ。
「今日は早かったな」
彼氏が女性に言った。
「フフン、フンフン、フフフフフン」
女性も何か言っているが、口がないので何を言っているのか分からない。とりあえずお茶もあげたし、私は厨房に戻ろう。
そう思って厨房のほうを向くと、目の前にBEGIN乳女が立っていた。私とBEGIN乳女は身長が全く同じらしく、目の前にちょうど顔があった。いや、のっぺらぼうだから顔はないんだけど。私は彼女の顔を見てハッとした。顔というより、おでこに貼り付いている伝票を見てだが。
私は厨房にビールの伝票を取りに行き、接着剤で伝票の1cm下のところに貼っつけた。多分ちょうど鼻の下あたりだと思う。部長のちょびヒゲの位置ね。部長は両津の部長ね。両津はこち亀の両津ね。
「ごゆっくりどうぞ」
早く帰れという意味の言葉を2人にかけ、私はその場を自転車で離れた。
ピポン
レジで客が呼んでいる。食べ終わってお会計だ。私は飛行機でレジまで行き、客が持ってきた伝票と私のパスポートを交換した。
「9600円です」
「10000円で」
「お預かりいたします」
「20000円のお釣りでございます。ありがとうございました〜」
ガシャパリーンシャン!
店内によく分からないタイプの音が響いた。多分何かが割れた音だ。
店内を見渡すと、あの2人がいたところの壁とガラスが破壊されていた。あいつら、食い逃げしやがったな。と思ったが、最近普通にお会計をするとなぜか店側が10000円ずつ損をするというバグが起こっているので、逆に得をした気分だった。壁もガラスもバンドエイド貼っとけば治るし。
それから1週間経っても壁もガラスも一向に治る気配がないという。おそらくあの2人の呪いによるものだろう。
「なんだかんだ言っても、やっぱり生きた人間が1番怖いんですよね」
三百汁 偽優希さんはそう言ってこの話を締めた。
感想待ってます!
と言いたいところだけど、書き終えたばかりなのに正直全然内容覚えてない⋯⋯
多分これを読んだ人も心には何も残らないんだろうなぁ。なんか面白かった気がするなぁ、あれ、でも何が面白かったんだ。何読んだっけ、何だっけあれ。って感じになってそう。
つまらんという感想も受け付けていますが、わざわざ書きに来るならせめて匿名で書きに来てください。匿名相手ならボッコボコにしても心痛まんから。来いや! 来てみろやーーーー! ハゲーーーーーーーー!