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【完結】本当に悪いのは、誰?  作者: ころぽっくる
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ラーラと午後のお茶 2

ちょっと、性的で不快な表現が出てきます。

苦手な方は、読み飛ばして下さい。

義妹の話に、ローザリンデは軽くショックを受けた。

中には、自分がかつて教えを乞うていた教師もいたはずだが、自分に対してそんな素振りを感じたことはない。


もしかすると、義妹は義妹で、伯爵家の血統をひく令嬢ではないという立場のせいで、それ以外にも嫌な思いをすることがあったのかもしれないと、ローザリンデは思った。


ラーラが言葉を続ける。


「でも…、わたし、今はがんばれるかもしれない。お義姉様みたいに、わたしにも分かりやすく教えようって、考えてくれる先生なら、お勉強、がんばってみたい…」


そこにあったのは、幼い子のような、好奇心と期待に満ちた、初めて目にする真剣な表情。


「淑女の礼、何度も何度もやり直しさせられて本当に嫌だった。でも、次の日、学校で先生に褒められて、本当に嬉しかった。大人が話している時、いつも何を話しているのか、全然分からなかったから、つまんなかった。だけど、お義姉様が前の夜に色々なお話を聞かせてくれてたから、晩餐会でわたしも話に入れた」


ローザリンデは、訥々と語られる義妹の言葉に、胸が痛くなる。

女に必要なのは、美しい容姿だけだと信じて疑わなかった実母から、なまじ可憐な美しさを有していたせいで、教育の大切さを蔑ろにされてこの年まで来てしまったラーラ。


自分が巻き戻ってまで、もう一度やり直していることの意義を、ずっと憎まれ続けた義妹から感じるとは…。


「ラーラ…」


思わず隣に座りなおし、その華奢な肩を抱くと、ラーラのふわふわとした白金色の髪が、自分の頬に触れた。

前の時の、自分の娘よりもなお幼いラーラに、母のような気持が沸き上がる。


しかし、その義妹は、少し肩を震わせると、思わぬことを口にした。


「お義姉様…。ゲオルグ様は、多分、わたしのことなどお好きではないと思います…」


ハッとした。けれど、震えが止まるようにと、さらに力を込めて肩を抱く。

イデリーナの後ろ姿を追うゲオルグを思い出し、ラーラも気が付いていたのかと、心が痛む。


「ほんとは分かってたんです。もっと前から。だって、ゲオルグ様がわたしを見る時の目と、わたしのこと好きだ好きだって抱き締めてくる男の人たちの目つきが、全然違うんですもの」


その言葉を聞き、ローザリンデは、思わずラーラの肩を抱いていた手に力を込めてしまった。


「っ?!お…お義姉様…?」


ラーラが驚いた声を上げる。

しかし、今義妹が発した言葉の衝撃で、一瞬頭が真っ白になってしまっていた。


今確か、ラーラはこう言った。


『わたしのこと好きだ好きだって言って、抱き締めてくる男の人たち』


と。


間違っても、未婚の、ましてや婚約者がいるような貴族の令嬢が発して良い言葉ではない。

ローザリンデは、ごくりと唾を飲み、どうかラーラの言葉の選択が間違っているだけであって欲しいと願いながら、問うた。


「ラーラのことを、好きだって言って、抱き締めて来られる殿方がいらっしゃるの?」


おずおずと切り出したローザリンデに、しかしラーラは今までの幼げな表情など嘘のように、突然、可憐な顔に妖艶な色を帯びさせ、内緒話を打ち明けるように小声でささやいた。


「ええそう…。パトロラネ夫人の目を盗んで、夜会で、カーテンの陰や灯りのないバルコニーに引っ張り込まれるの。よほどわたしが好きなのよ。お母様にそう言ったら、それは結婚生活でも大事なことだから、どんどん経験を積んで男性のあしらい方を身につけなさいって」


そして、何を思い出したのか、ほおっと熱い息を吐く。


「殿方は()()がお好きなんですって。わたしも…、楽しいから、好き…」


ローザリンデは、全身に鳥肌が立った。

それは、十五歳の少女がする顔ではなかった。


そこには、理性として身に着けるべき、知識や倫理観を教えられぬまま、本能の赴くままに、年齢不相応の享楽の愉悦の入り口に立つ、歪な少女がいた。


恐る恐る、問う。


「抱き締めてくる殿方は、一体何人いらっしゃるの?」


その問いに、ラーラが嬉しそうに指折り始める。


「う~ん…数えられない。たくさん?中には、ラーラをお友達に紹介して、そのお友達もわたしに夢中になっちゃうってこともあるから」


頭がくらくらする。しかし、確かめずにはいられなかった。


「抱き締めて、それから殿方はどうされるの?」


「そこまでよ。口づけしたり、ちょっと触られたり…。だってお母様が、結婚するまではスカートの中に絶対手を入れさせてはダメって。きっと、それが一番楽しいことなのに。だって、みんなそうしたがるんですもの」


固唾を飲んで待った返答に、ローザリンデはほーっと、長く息を吐いた。

最低限の貞節が守られていたことに、安堵して。

しかし、次の言葉で、またしても戦慄した。


「スカートの下の楽しみは、結婚してからなんですって。そう言って焦らされた時の殿方のお顔も楽しいわ。わたしの結婚を待っている方がいっぱいいらっしゃるって言ったら、後継ぎの子どもを産んだら、その方達とどうやって上手く()()()のか、教えてくれるって」


ローザリンデは、おぞましさにまたしても鳥肌を立ててしまった。

しばらく頭が働かず、ラーラに声を掛けられないくらいに。


「わたしのことを好きな方はいっぱいいるの。なのに、婚約者のゲオルグ様は、この前の晩餐会でも、ちっともラーラのこと見て下さらないから、パトロラネ夫人が席を外した隙に、抱き着いて口づけをねだったの。そうしたら、気が付かない振りではぐらかされたのよ」


衝撃的な告白をされていると思うけれど、水槽の中で聞いているかのように音が不明瞭にしか聞こえない。

頭痛までしてきた頭を押さえ、ローザリンデは確認した。


「ゲオルグ様は婚約者なのだから、これまでにも口づけを?」


しかし、ラーラはそれに関して、これまでとは真逆な態度を説明する。


「いいえ。ゲオルグ様とは、これまでダンスの時に手を触れただけ。なかなか公式の場に婚約者としてエスコートして下さらないから、お母様からは、今度コンサバトリーに連れ込んで、楽しいことに誘ってみなさいって言われていたわ」


『コンサバトリーに連れ込んで、楽しいことに誘ってみなさい』


その言葉に、前の時、裏庭で盗み見てしまった、脳裏に焼き付くコンサバトリーの二人の姿が大きく浮かぶ。


なんてこと!あれは、愛し合う二人が愛を交わす場面ではなく、義母が義妹を焚きつけて、男を自在に操るためにさせたことだったかもしれないなんて!


「でも、ゲオルグ様は、多分わたしがお好きじゃないのよ。それに、最近はお母様の『お楽しみ』のために、わたしがお手伝いさせられる時もあったから、お母様がパトロラネ夫人のところで療養されるようになって、ちょっと安心しているの」


またしても聞き捨てならない言葉を聞いて、ローザリンデが固まる。


「『お楽しみ』のためのお手伝いって?」


すると、ラーラは眉をしかめ、ため息を吐きながらこう言った。


「夜会で、お母様が『お楽しみ』をしたい男性の関心を引くための、わたしは『えさ』で『スパイス』なんですって」 


おぞましさに、体が震えた。

レオンの瞳の色が、疑いようのない『シャンダウスのヘーゼル』で良かったと、これほどまでに思ったことはなかった。                                                                         

読んで下さり、ありがとうございます。

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