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【完結】本当に悪いのは、誰?  作者: ころぽっくる
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醜聞 3

パトリックは伯爵家の門を出て、馬車道でチュラコス家の方角に馬の首を向けた。しかし一瞬まぶたを閉じたあと、次には自分の生家、ガッデンハイル公爵家へ手綱を引きなおした。


怒りに燃えてシャンダウス家を飛び出し、その時はすぐにもフィンレーの胸倉を掴んで揺さぶってやることしか考えられなくなっていた。しかしその激しい絵面が脳裏に浮かんだ時、すっと気持ちが冷えたのだ。


それを目の当たりにする、チュラコス家の使用人、家門の人間たちが、いらぬ憶測と無責任な放言を、間違いなくそこここに広げることが容易に想像されて。そうなって初めて、なけなしの理性が、それをやめろと自分に訴えて来た。


それでも、怒りの矛先をすぐに収めることは出来ない。


(くそっ!ならば、ガッデンハイル公爵家から、正式な使者を立て、チュラコス公爵家に書簡を送ってやる)


そう憤りながらも、パトリックとて、実際フィンレーが使用人に、まさか本当にローザリンデの不利益となるようなことを口にしたとは思っていない。


ローザリンデの縁で深く親交を持った相手だが、その人となりはそれとは関係なく、充分に認めるところだ。


くわえて、城塞で別れた時の彼の様子を思い起こせば、使用人があらぬ方へ誤解した原因は何となく想像は出来る。

フィンレーは、常に豪胆で太陽のような、チュラコス家が誇る嫡男だ。なのにその人物が、憔悴した様子で王都へ帰って来て、しかもその傍らに、一緒にいるはずの最愛の婚約者を伴っていなければ、周囲の人間は間違いなく、何をか様々考えざるを得ないだろう。


(だが、それでも、フィンレー殿なら、そんな自分の態度がどのような憶測を生むか、分かるはずだ)


しかし、そう思ったところで、パトリックは自問した。


(本当に、そうだろうか?チュラコス家の人間にとって、呪いを解呪する運命の相手は、何よりも優先されるもの。だからこそ、その人間が平民でも、他の人間と結婚してしまっても、相手を追い求める)


四十までローザリンデを諦めなかった前の時のフィンレー…。

それほど、チュラコス家の人間にとって、『運命の相手』の存在は死活問題なのだ。


前の時を生きていたパトリックすら、ローザリンデから、彼に新たな運命の相手がいるだろうことを聞かされていなければ、そんなことは想像できなかった。ならば、巻き戻ったわけでもないフィンレーが、ローザリンデをへの情熱が失せてしまったのは、新たな『運命の相手』が現れたからという考えに至る可能性は低いだろう。


単純に、『呪い』が目前に迫っていると考えるかもしれない。近い所では、彼の叔父がそれに耐えきれず、自死を選んでいる…。それを間近で見ていたフィンレーが、今現在、正常な精神状態であると考える方が無理がある。


パトリックは馬の歩みを止め、空を見上げた。


フィンレーとの婚約を解消すべしと言ったゲオルグの言葉を伝えることで、その心の変化が必然だった可能性を教えたつもりだった。それで、フィンレーの心からローザリンデへの愛が消え失せたことの罪悪感は軽減されたかもしれない。


けれど、『運命の相手』を失った後のフィンレーの気持ちなど、パトリックにはある意味どうでも良いことで、そこに思いが及ぶことすらなかったのだ。

今日、この時まで。


「頭が冷えて来た…」


ならば、ローザリンデがパトリックに聞かせた、フィンレーの新たな『運命の相手』の可能性を話してやるべきだろうか…。大切な幼馴染を、悲しませた男に…。


(…今の気持ちじゃ無理だ。ぼくはどうしたって心の底じゃ、リンディを悲しませた()()を許すことができない。それを伝えるかどうかは、リンディに決めてもらえば良い)


フィンレーが『運命の相手』にどれほどの執着を見せるか、そして愛情を抱くのか、一番知っているのはローザリンデに他ならないから。


(けれどその前に、ゲオルグ殿の発言の真意が知りたい。どちらにしても、それからだ)


城塞からもう一週間近く前に送った、ゲオルグ宛ての手紙は、公爵家の威光を十分に纏わせ最速で本人の手元へ届くよう送ったはずだが、期待していたガッデンハイル領への返信はなかった。

今日も騎士団へは足を運んだが、あいにくゲオルグとはすれ違いとなったし、もし顔を合わせていたとしても、どこに耳目があるか分からない場所で、する話ではなかっただろう。


(もしかすると、王都の屋敷に返事が来ているかもしれない)


パトリックは、ひとつの可能性に行き当たり、逸る気持ちで、危うく馬の腹を蹴りかけてやめた。

王都の中は、王家の特使と非常時以外、いかなる馬車も騎馬も、『なみ足』で馬を走らせなければならないことを、寸でで思い出したからだった。


王都では幌馬車の方が良いかもしれない。

いつでもローザリンデを横に乗せることが出来るから。


ここには細い獣道も、急な崖もない。

幼馴染との思い出の詰まった幌馬車を思い浮かべれば、それだけでパトリックの心は少しだけ浮上した。

少し短いですが、キリが良いので今日はこれで。

読んで下さり、ありがとうございます。

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