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【完結】本当に悪いのは、誰?  作者: ころぽっくる
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呪いを解呪する運命の人 2

唇の痛みはそのまま、ローザリンデの心の痛みのようだった。

たまらず、思わず話題を変える。


「ところで、奥様はお元気でいらっしゃいますか?今は一緒にご領地にいらっしゃるのですか?」


トレバスの最愛の妻、ハイネのことを尋ねた。すると、子爵は途端に予想以上に相好を崩す。あの水晶舎の茶会から、二人の仲睦まじさは何ら変化していないらしい。


「ああ、シャンダウス令嬢、妻にお心を砕いていただき有難く存じます。ハイネは元気にしております。ただ、今は王都のマーシャシンク侯爵家の屋敷におりますが」


北部でも辺境伯領の辺りは今回の騒動は特に影響していないはずなのに、なぜ?と顔に出ていたのか、トレバスはすぐに言葉を続ける。


「いや、ご心配なく。実は…、子を授かったことがつい数日前に分かりまして!社交シーズンまでは領地で過ごす予定だったのですが、医師の助言もあり、マーシャシンクの実母の下で今はゆるりとさせることにしたのです」


マーシャシンク侯爵家。

なぜか、それを聞いた途端、ローザリンデの中で、何かがざわざわとうごめき出した。


それは、フィンレーが四十を超えて迎えた妻の出身である家門。

前の時、共に王弟派として手を組んでいた二人が、奇しくも年の離れた姉妹である令嬢をそれぞれ妻としたのは、単なる偶然なのだろうか…、と。


城塞が奪還され、隣国側が全軍を撤退させた後、王弟派は急速に勢力を失い、その上、国家転覆の(はかりごと)の首謀者と目された。しかし、その王弟派の黒幕だったフィンレーは、表立った罪状が無く、貴族裁判所で裁かれることはなかったが、その後は王都での公爵の立場を捨てるように、家門のほとんどを引き連れチュラコス公爵領に引っ込んでしまった。


その時にひっそりと領地の教会で婚姻の宣誓だけを行い妻となったのが、このマーシャシンク家のご令嬢だった。

社交界にデビューもしておらず、王立学院にも通っておらず、ぽっと降って湧いたようなこの令嬢の出現に、一頃ゴシップ欄はこの話題で持ちきりだったと記憶している。


そこでもっぱら取りざたされたのが、高齢の侯爵夫妻の娘というにはあまりにも不自然な令嬢の出自。


侯爵閣下がどこぞで産ませた庶子。

チュラコス公に嫁がせるために、養女にした平民の娘。

侯爵家の令嬢が産んだ、不義の子。


それは様々な憶測を呼んだが、結局その醜聞は王都でのみ話題に上り、遠くチュラコス公爵領に届くことはなく、新年の宴でゲオルグがアッザンの辺境伯に封される頃には、人々の関心はそちらに移って行った。


ローザリンデも、カスペラクス家とは縁がなかった話に、そういった記憶がぼんやりあるだけ。


けれど、今ふとひっかかる。結局あの令嬢は、どこから現れたのだろう…と。

あの時二十歳なら、その令嬢は今年の終わりから来年には生まれるはずで、今の時期は、まだ母親の腹の中。


そう、このルゴビック子爵とその奥方の子のように…。


そう考えた瞬間、ざわざわとただ漂っていた考えが、カチリと音を立てつながり、明確な思考となって、一気にローザリンデの中で展開していく。


フィンレーの前の時の妻は、このトレバスの娘なのではないだろうか…と。


前の時、ミュクイット辺境伯に子がいたかどうかの記憶はない。

彼は王弟派の首領として、誰よりも命を狙われてもいて、カスペラクス家でもその所在をいつも追っていた。しかも、その妻子に至ってはさらに情報が無く、トレバスと行動を共にしてはいないと認識されていた。


そして、あの奪還以降、トレバスは行方不明とされた。しかし実際には捕らえられ、幽閉され、最後は命を奪われたのだ。

もし、あの時、二人の間に子どもがいれば、その子はどうなっていただろうか…。


城塞の応接室。パトリックとにこやかに歓談するトレバスが、急に前の時との因果の中で、その存在感を増していく。ローザリンデは、今自分の中でつながった前の時と今の、時空を超えた運命と呪いに、息を呑んだ。


あれから、一体どんな顔をして、どんな返答をトレバスたちにしたのか…。

気が付けば、自分の部屋の前で、ローザリンデはパトリックに名前を呼ばれていた。


「…ンディ!リンディ!」


肩を揺さぶられ、やっと目が覚めたようにハッとする。目の前には心配そうに潜められた翡翠色の瞳。

窓からの月明かりで、神秘的に輝く銀の髪。


「パトリック…」


ただただ自分を気遣う表情。見晴らし台でもそうだったが、パトリックに心配ばかりさせている。申し訳なくて、ローザリンデが思わず眉を寄せれば、その皺をすらりと長い人差し指が突っついて来た。


「しかめちゃだめだ。痕になってしまう」


その言葉に、全身に力が入っていたことが分かる。そして、やっと体の力を抜いた。


自分を気遣ってくれている幼馴染の方が、国教会のこと、教皇のこと、考えなければならないことは山積みで、自分以上に心が乱れているはずだ。その彼が自分を見守ってくれていることに、素直に胸が熱くなる。


「パトリック、ありがとう」


心からの感謝の言葉がふと口に上り、少し高い所にあるその瞳を見つめれば、パトリックが思わずといった風に、ローザリンデの頬をその右の手の平で包む。

そして、その頬の感触に驚いたように、すぐさま手をびくりと引っこめると、ローザリンデの両手がそれを追いかけギュッと握った。


「本当よ。ありがとう、パトリック。あなたがいるから、わたし、ここに立っていられる」


そう告げるローザリンデの瞳が、暗いランプの灯りの下、揺れたように見える。

しかし、その揺らぎにパトリックが動揺した瞬間、もう幼馴染の体は、扉の向こうに吸い込まれていた。


「さっき、応接室で思い当たったことがあるの。考えをまとめるから、明日、ガッテンハイル領に行く道中で聞いてもらって良い?」


今すぐ聞かせて欲しいと、パトリックの心の手が扉に伸ばされる。

けれど、実際の右手は、肩のあたりに挙げられて、ローザリンデにおやすみを告げていた。


「分かったよ。では、明日のために、後は夕食を摂ってゆっくり眠って」


その言葉にヘーゼルの瞳が微笑んでうなずくと、パタリと扉が閉められた。


その夜、パトリックは手紙を書いた。

宛名は、ゲオルグ・ザン・カスペラクス王立第一騎士団副団長。

そして、前の時も今までも、一度として使ったことのない公爵家の権力を、生まれて初めて行使した。

この度の事態収拾のため、めまぐるしく所在が変わるであろうゲオルグに、一日でも早く手紙を届けさせるために。

読んで下さり、ありがとうございます。

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