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【完結】本当に悪いのは、誰?  作者: ころぽっくる
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取引 3

ローザリンデはパトリックの身を案じ、ゲオルグに教皇の内通の事実を告げることを望んでいた。

パトリックは、ローザリンデが狙われたことで、これ以上極秘に動くことの限界を感じている。

ゲオルグは誘拐未遂を根拠に、公爵令息たちが隣国側にとって脅威となる何かを掴んでいることを騎士団が察知していることを暗に示し、その元となる情報を渡すことを迫っていた。


そしてフィンレーは、薄い微笑みを貼り付けながら、最愛の婚約者が薄汚い輩につけ狙われたことに、その実、冷酷な報復を頭の中で画策し始めている。


北部の修道院に潜り込ませた手の者とのやり取りのため、北部鉱山の道を北上していた時に、早馬の伝令にローザリンデが王都で第一騎士団によって保護され、ハフナの門に連れて来られていることを伝えられたのだ。そこからフィンレーはともに動いていた私兵をすべて置き去りにし、単騎で無茶な早道をすり抜けながらハフナの門に駆け付けた。


その道中、易々とすり替わられた公爵家の護衛騎士、隣国側の間諜、加えて、ローザリンデに過酷な山越えを強いた第一騎士団に対しても怒りをたぎらせながら。


だから門に到着し、別室に通されていたローザリンデを見た時には、あまりに強く抱きしめてしまい、護衛についていた騎士のひとりが、慌てて婚約者の令嬢が苦しそうだと間に入ったほどだ。


フィンレーにとって、今こうしてパトリックと共に行動しているのは、第一には婚約者がそれを望んだから。

前の時の自分の行動を後悔して…と見えているかもしれないが、その実、そこに至った原因と動機を考えれば、充分にありうべきことだと自覚し納得している。


なぜならチュラコス家の人間にとって、最愛の人と結ばれるためなら何をしても構わないというくらい、それは最優先事項だからだ。

父と母の出会いから結婚までは、さすがにその息子であるフィンレーが目にすることはなかったが、従兄妹のアリステアの母である、公爵令嬢であった叔母が、平民の、しかも馬丁と結ばれた時の騒動は、幼いながらも記憶にある。


文字通り、理性を失ってしまうほどのその時の叔母の熱量を、フィンレーは少しうすら寒いものを感じながら傍観していた。加えて、『これがチュラコス家の呪いというものだ』という一言で、自分以外の人間たちが簡単に理解し許容してしまうこともまた、彼にとって不可思議でしかなかった。


なのに、実際に自分が成長し、異性に対してそういう感情を抱く頃には、その熱量や狂気に近い切迫した感情というものが、容易に体感として想像できてしまうようになったのだ。


だから、ローザリンデと出会い、その伯爵令嬢が継嗣であると知った時には、これ以上感情を傾けてはいけないと自分の心に最大限の精神力でもって制動をかけた。

そうすればそうするほど、自分の努力をあざ笑うように、目は、意識は、どんどんその令嬢に吸い寄せられていくのに。


チェスを口実に盤を挟み対面するたび、恐ろしい速度で自分が自分でなくなっていくようなあの覚束なさ…。


ついには、彼女に近付く伯爵家狙いの令息たちをけん制し、シャンダウス伯爵家の裏事情まで調べ上げ、何とか公爵家にローザリンデを迎えることが出来ないかと、諦めるよりも他の手段を画策するようになっていった。


その姿を、幼い頃の自分が見れば、きっと理解できないと首を横に振っただろう…。


しかし、天は彼を見放さなかった。

彼女に腹違いの弟が生まれたのだ。

もう家を継ぐ必要はない…。


そのために、彼女が学院を中途退学させられ、義理の母と妹によって屋敷の中で虐げられることになるところまで、想像が及ばなかったのが今は悔やまれるが…。


しかし退学してすぐの社交シーズン開始と共に、フィンレーはシャンダウス家に夜会の招待状と求婚状を送り、悲惨なデビュタントを目にして、再度求婚状を送った。一日も早く、ローザリンデを伯爵家から切り離そうとして。


なのに、承諾の返答はおろか、その求婚状への応答が一切ない。


そんな時、ガッデンハイル家で久々の茶会が開かれると聞き、藁にも縋る思いで、母に同行したのだった。


だから、そのローザリンデが前の時、国王派の家門の男にかすめ取られたと知ったなら、きっと自分はそれを取り戻そうと何でもしただろう。

しかもそのために王弟派に与したということは、その男が、国王派全体を敵に回さなければその没落を成しえないような相手だということ。ならば、その男が誰だかなんて、自然と限られてくるというものだ…。


そう、それは目の前の、軍閥の長であるカスペラクス侯爵の次男、第一騎士団副団長である、ゲオルグ・ザン・カスペラクスのような人物だろう。


フィンレーはじっと、自分ではなくパトリックに鋭い視線を投げる黒づくめの男を見る。

その考えは、今や確信に変わりつつあった。


前の時のローザリンデの夫は、この男で間違いない…と。


だからパトリックは、カスペラクス家が婚約者の頭を挿げ替えようとしてきた時、慌ててそれを阻止するために自分を呼んだのだ。


だからローザリンデは新たな夫としてこの男を選ばなかったにもかかわらず、今こうして対峙した時、その相手への信頼感を滲み出させているのだ。


そしてそれは、前の時を知っているパトリックからも間違いなく漂う…。


この男は、夫としては何か間違いをしでかした。

しかし、こと騎士としては、陥落した城塞を命を賭して取り返した英雄として、ローザリンデとパトリックは、全幅の信頼を寄せているに違いない…。


だが、前の時を経験していないフィンレーには、そんな気持ちを持ち合わせることは出来ない。

どころか、この男が本当に国益のために動いているのかすら疑わなければならないと感じている。


まさかいまだにローザリンデを諦めきれずに、何かを企んでいるのではないか。

そんなことさえ浮かんでくるほどに。

読んで下さり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっと最新話に追いつきました。 しかし、まさかゲオルグ、フィンレー、パトリックの三つ巴になるとは予想外の展開でした。 ローザリンデの幸せは、一体誰の手の中にあるのか。 はぁ・・・ワクワクしま…
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