ちなみに黄色ブドウ球菌と大腸菌による菌血症の年間死者数は毎年およそ17000人でその中の薬剤耐性菌による死者数は8000人
さて、新型コロナの死者が1万人を超えたとか、インフルエンザの超過死亡は毎年1万人だとか言われますが、実は黄色ブドウ球菌と大腸菌による菌血症の年間死者数は毎年およそ17000人で、この中にはおよそ8000人ほどが薬剤耐性菌による死者数となっています。
そして世界で年間70万人が薬剤耐性菌による疾病のため死亡しており、このまま何も対策を打たなければその数は2050年には年間1000万に達するとの予想がされています。
しかし、薬剤耐性菌や薬剤耐性ウィルスはどんどん増えていて、たとえばインフルエンザの薬剤に関して言えばオセルタミビル(タミフル)やペラミビル(ラピアクタ)に対する耐性を持つインフルエンザウイルスはすでに確認されており、いずれは他の薬剤に対しても薬剤抵抗を獲得していく可能性が高いと思われます。
また薬剤耐性HIVウィルスとの戦いに今のところは勝っているといえますが現状のインテグラーゼ阻害剤(INSTI)に対して薬剤耐性を獲得してしまうと、HIVの進行を食い止める方法は事実上なくなるのではないかともいわれていますね。
また結核は抗生物質により治療が可能になったことで、過去の病気と思われていましたが、多剤耐性結核菌や超多剤耐性結核菌の出現により、そうも言えなくなってきました。
そして、かつては、多剤耐性結核菌は薬剤感受性結核菌より増殖力が弱く、ヒトからヒトへ感染しないと考えられていましたが、近年、結核菌の遺伝子型別法が進歩し、多剤耐性結核菌も感染することが証明されています。
こういった細菌やウィルスの変異進化速度に対して医学の方は常に後手後手に回っているのが実情です。
細菌の耐性機構は細菌のDNAに組み込まれていますが、細菌のDNAには増殖に必要な情報を組み込んだ染色体上のDNAと、染色体外にあるプラスミドと呼ばれるDNAの2種類があり、薬剤耐性に関わる遺伝子はこのどちらのDNAにも存在しています。
そして染色体上にあるDNA情報は、いわゆる“親から子へ”の形で、分裂の際に母細胞から娘細胞に伝えられますし、(垂直伝搬)。また、死菌などが残していったDNAを自分に取り込んでしまう方法(形質転換)や、細菌に感染するウイルス(バクテリオファージ)を介してDNAを取り組む(形質導入)などの方法で、垂直伝搬以外の方法で新たに薬剤耐性を獲得することもあります(水平伝搬)。
そしてプラスミド上にあるDNAによる薬剤耐性獲得は、より大きな問題となります。
プラスミド上のDNAは生存に関わらない代わりに自由が効きやすく、「接合」という方法で同一種内だけでなく他菌種から薬剤耐性情報を獲得することが可能です(水平伝搬)。
なのでプラスミド上に耐性遺伝子があると、薬剤耐性菌の拡散が非常に速くなるのですね。
そして薬剤耐性菌は耐性を得るため、本来の菌としての能力に何らかの代償を払っていることも多く、細菌叢の生存競争という意味では弱者であることも多いのですが、そこに抗生物質という「選択圧」が加わってしまうと、薬剤耐性菌以外の細菌が減少し、薬剤耐性菌が増殖しやすい環境ができあがり、さらには、ベータラクタマーゼの過剰産生やキノロンのDNA変異など、抗生物質曝露そのものが薬剤耐性獲得の原因となることもあります。
結局の所は抗生物質や抗ウィルス剤に頼らないで治療をしていくこと、風邪だからとりあえず抗生物質出しておきますね、みたいなのをやめていくことが大事かなと思います。