3※残虐な描写あり
泣き縋る宰相のワールズさんを引き摺りながら、私が蹴破ったままの執務室へ入る。
「陛下ああああ!!ノエル様を口説いて下さい!!このまま世継ぎ問題が解決しないと私が責められるんですううう!!私が三食昼寝付き、オヤツも付けると言ったら反応良かったですよ!!」
「ワールズ、煩い。ノエル、そんなものを引き摺って入ってくるな。ワールズ、今すぐノエルから離れろ」
シグルがインクの瓶をワールズさんに投げつける。私は影でそれをキャッチして、シグルの机に置いてあげる。ワールズさんは鼻水を啜りながら立ち上がる。銀色の長い髪が靡いて綺麗だ。顔も整っていてモテるのだが、私達の前では残念な人じゃなかったら私もトキメイたのかもしれない。
一方のシグルは顔は整っているのだが、目が怖い。いつも何かを睨め付けてる様で、眉間にも皺が寄っているので近寄り難いイメージがある。そして王族の血を引く者全員殺しちゃったもんだから『狂王』と呼ばれ、恐れられている。そりゃあ嫁になりたくないよなあ。何時も殺されるかも知れない思いをするんだから。
私にとっては美味しいものをくれる優しい王様なんだけどな?スラムも優先的に改善してくれたし。テーブルに置いてある軽食に私は飛びつき、もぐもぐとソファに沈み込む様に座り食べる。
「陛下、胃袋はしっかりと掴んでいるんですから、あとは甘い言葉を囁けば良いだけなのですよ!!夜だって二人で寝てるんですから、後は言葉だけです!!」
「一緒に寝てるけど、手を出された事ないよ?シグルが一人で寝ると魘されるから仕方なく」
「ノエル、それ以上言ったら夕食は無しだ」
私はその言葉に持っていたパンを口に突っ込んだ。ワールズさんも察した様に哀れな目でシグルを見る。シグルは鬼も逃げ出すような形相をしていた。うん、黙っておこう。
「ノエル、一日六食、オヤツ食べ放題、昼寝付きはどうだ」
「うーん、シグルが言うと甘く聞こえない」
「何故ですか!?ノエル様!!」
「こうもっとトキメキを求めているの、敵の司令官の首を吹っ飛ばすような。私だってお年頃なんだから」
「そんな危ないトキメキは違うと思います」
ワールズさんが頭を抱え項垂れている。何故だろう?私は他の人と感覚が違うから分からない。恋とは何だろう。愛とはなんだろう。小説を読んでも分からないトキメキ。さぞや素晴らしいものなのだろう。だって気持ち一つで食欲が無くなるなんてあり得ない。食べれる時に食べないと、いつ無くなるか分からないから。
「それより、隣国の敵がこっちに向かって来てるんでしょ?ラインで私達第四師団が迎え討つけど良い?」
「ああ、帝国の第四死団の力を思う存分見せてやれ。圧倒的な力でねじ伏せろ、立ち上がる希望も砕くような」
「りょーかい!!私頑張るね!!だから美味しいご飯いっぱい用意しててね、第四師団は何時も飢えているんだから」
「分かっている」
私は軽食を食べ終わり、隣国との境界線、ラインに向かう準備をするため一応ある自室に向かった。
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ここはラインの最前線、お客様はまだご到着してないようだ。私はスリットの入ったスカートを靡かせ、二メートル弱ある影の鎌を肩に担ぐ。
「傾注!!ノエル様からの言葉だ!!耳をかっぽじって聞け!!」
「戦友諸君、戦争が始まったらまず魔道士を狙え。その次が司令官だ。切り刻んで豚の餌にでもしてやれ。神なんて糞ったれは、私達の戦場は不似合いだ。いや、今こそ我々が神にとって代わるのだ!!……それでは戦友諸君、戦争の時間だ」
遠くに見えてきた隣国の敵兵に私達は槍の様に突っ込んでいく。私の仕事は敵の注意を引くための囮。だから派手に暴れまわる私の影から無数に伸びる槍のような影。そして一振りで十人以上は簡単に殺せる大鎌。敵は私を止めない限り、私の部下が淡々と仕事をしていく。
「この死神がああああ!!」
「知ってる?死神もお腹空くんだよ?」
的外れな言葉を言いながら、最早虐殺と言う名の蹂躙を始める。部下が殺し損ねた司令官の首をもぎ取り、この敵陣を率いている将軍に詰め寄る。
「話には聞いていたが、死神がこんな少女だとはな。戦いぶりを見ていたが最早普通の人間の感性を感じないな」
「まあ、死神だから?お腹空いたから早めに終わらせるね」
影を自分自身に纏わせ、一つ目の口の大きい化け物になる。守って良し、戦って良しの便利な魔法だ。
「……これが死神の力か」
「グガアアアアア!!!!」
無数にある手足を使い敵将に突っ込んで行く。敵将の剣を弾き敵将を片手で掴み上げる。敵将は暴れるが握り潰す様に力を入れて顔の前まで持ってくる。私の影は大きな口を開けて敵将の上半身半分を食いちぎり、下半身をまだ戦っている敵陣に投げ込む。
「うわあああああ!!化け物だあああ!!逃げろ!!にげっ……」
次々と逃げようとする敵達を片っ端から喰いちぎり、手で握りつぶし、踏み潰していく。私はそんな光景を見ながらお腹空いたなあ、とぼんやりと考えていた。






