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王宮の執務室にノックもせず蹴破る。理由は両手いっぱいに食べ物を持っているからだ。
「シグル、偉い人達がシグルが結婚しないって泣き縋ってきたんだけど。そろそろ身を固めたら?」
「……執務室を蹴破って入ってくるな。毎回直すのが面倒くさい」
「それでどうするの?隣国のお姫様は私が殺しちゃったし、自国の令嬢達はシグルと私を怖がるし……どうしようかね?」
「人の話を聞け。正妃は問題無い。お前がなればいい。美味いもの嫌と言うほど食べさせてやるといっただろう」
「えー、私やだなあ。戦場にいた方が楽しいもん。美味しいものも今でもいっぱい食べさせてくれてるし。てか、スラム出身の正妃ってあり?」
腕の中にあるサンドイッチを食べながら、ソファに座り、食べ物をテーブルに置く。
「騒ぐ奴は黙らせれば良い。これは決定事項だ」
「戦争行っても良いなら、なってもいいかな」
「どこの世界に正妃が戦争に出る馬鹿がいる」
「シグルだって、王様なのに隣国に殴り込みしたじゃん。人の事言えないじゃん」
「それとこれは、別の話だ」
「別じゃないですうー、一緒ですう」
ぱくぱくと次から次へ美味しい物を食べていく。料理長腕上げたな。
「ねえ、愛の告白とかないわけ?令嬢達が読んでる小説見せてもらったけど、デロデロに甘い言葉言ってたよ」
「今よりもっと美味いもん食わせてやる」
「なんか期待した言葉と違う」
はあ、とため息をつき戦争の準備をする為立ち上がる。一応これでもシグルの護衛&第四師団長なのだ。第四師団はスラム出身者や貧しい家庭の者が多い。そのせいか生きる事、食べる事に執着する者達ばかりだ。私の出生も受け入れ、何故か崇拝する者が多いのが謎だが。そして周りは第四死団とも呼ぶ者が多い。
第四師団の訓練所に行くと皆んな必死に稽古をしていた。私が教えた騎士とは違う戦い方。泥臭くて卑怯な戦法ばかりだ。うん、皆んな調子良さそうだから今回の戦争でも活躍するだろう。隣国に殴り込みした時点で戦争なんて非生産行為は辞めるべきなのに。ただ多くの人間が死に、孤児になるもの、スラムに落ちる者が増えるだけなのに。
でも、戦争自体は楽しいからいっか。
私は笑いながら多くの人を殺す。その姿から死神と諸国から言われている。だからあまりこの国に戦争を仕掛ける馬鹿はあまりいないのだが。
隣国の王様とお姫様を殺した事で、新たな王様が弔い合戦とばかり戦線布告をしてきた。馬鹿だなあと思いながら第四師団の稽古を見ていると、みんなが私にやっと気づいた。
「ノエル様!!気配を消して稽古を眺めるのは辞めてください、一瞬敵かと思ってしまいます」
「気付かない方が悪いんだよ?戦場では命取りだね」
「心に免じておきます!!お前らもノエル様の有難い言葉を体と頭に叩き込め!!」
「「「はい!!」」」
副団長のアーガストに料理長からもらったサンドイッチをあげる。
「皆んなに配っておいてー」
「皆の者!!ノエル様から食べ物を頂いたぞ!!有り難く食べるんだ!!」
「「「ノエル様!!有難う御座います!!」」」
うむ、元気があって宜しい。食べないと力が出ないからね。ヒラヒラと手を振り調理室へ向かう。料理長に何か美味しい物でも作ってもらおう。
調理室へ行くと料理長が休憩していた。まあ、休息も大事だよね。お腹の虫がならない様に、私専用に置かれた椅子に座る。
「ノエル様またですか?貴女のお腹はどうなっているんです?」
「魔法のせいなんだよね。使えば使う程お腹が空くの」
「軽食なら、陛下の所にありますよ。陛下自ら来て軽食を頼まれて行きましたから。、、、愛されてますね」
「愛されてるの?便利な人間だから側に置いてるだけじゃない?」
「それなら態々自らノエル様の軽食を頼みに来ませんよ。使いを出せば良いだけなのですから。ノエル様は陛下の事、どう思ってるのですか?」
「美味しい物を食べさせてくれる良い人?」
「陛下が少し可哀想に思えてきました」
「素直じゃないシグルが悪い」
「貴女だけですよ、陛下の名前を呼び捨てにする人は」
むぅと頬を膨らませ、軽食があるシグルの執務室へと戻る。なんだか遠回りしてる気分だ。トコトコと王宮を歩いていると、宰相のワールズさんが私を見てまた泣きついてきた。この人有能な筈なのにこういう変な所あるんだよなあ。
「ノエル様、どうか!!どうか!!陛下のお嫁さんになってくださいいい!!陛下に見合いの絵を持っていっても、すぐさま燃やされ、ノエル様がいるから良いと!!この際ノエル様が正妃に収まってくだされば、お世継ぎ問題は解決するのですうううう!!」
「それはシグル次第じゃないかな?今のところ私は戦争の方が楽しいし」
「そんな事仰らず!!三食昼寝付き、オヤツも付けます!!素晴らしい職業ですよ!!」
「それは甘い言葉だなあ……」
三食昼寝付きでオヤツも付くなら悪くないかもしれないが、シグルにはなんかこうもっとトキメク様な言葉が欲しい。