七 本音
「さっきの人、お友達?」
飯田がそう訊いた。
「はい、会社の同僚なんです」
「薫さんとかいう人かな」
「あ、違いますけど、薫も来てると思います・・」
「えっ、じゃあ紹介してよ」
「えっ・・でも・・」
「二之宮さんのお友達なんだよね」
「えぇ・・まあ・・でも向こうは合コンですし・・」
「そっか。それじゃ邪魔しちゃ悪いね」
そして私たちは飲み物と料理を注文し、薫たちのことは気にせず話をした。
「この十日間、なにしてたの?」
飯田に訊かれた。
「会社と家の往復です」
「悪かったね。ほんと仕事が忙しくてメールしかできなくて」
「いえ、そんなのいいんです。メールだけでも嬉しかったです」
「僕もね、きみからのメールだけが唯一の楽しみだったよ」
「そ・・そうですか・・」
「二之宮さん、直ぐに照れるね」
「・・・」
「そんなところが、とてもかわいいよ」
そこで私はビールをガブッと流し込んだ。
「おいおい、もっとゆっくり飲もうよ」
「なんだか・・飲まないと恥ずかしくて」
「あはは、でもガブ飲みは身体に毒だよ」
「は・・はい・・」
「さっ、食べよう~食べよう」
飯田は私のお皿に、料理をたくさん乗せてくれた。
「あ・・じゃ、私も」
そう言って私も飯田のお皿に料理を乗せた。
「どうぞ・・」
「ありがとう」
私は箸を持ち、刺身をゆっくりと口へ運んだ。
「その中トロ、どう?」
「はい、とても美味しいです」
「二之宮さんは、何でも美味しそうに食べるよね」
「そうですかね」
「見てて気持ちがいいよ」
「そうかな・・あはは」
「そうそう、そうやって笑ってね」
「はい」
さっきビールをがぶ飲みしたせいか、頭の中がフワフワしてきた。
「きみのこと、沙月って呼んでもいいかな」
「え・・」
「いいよね」
「あ・・はい。とても嬉しいです」
「沙月」
「はい・・」
私はもう夢心地だった。
まるで自分が、ドラマのヒロインにでもなった気分で満たされていくのがわかった。
飯田さんと結婚出来たらなあ・・
そんなことも頭をよぎるのだった。
「ちょっとお邪魔しますよ」
そこに薫がやって来た。
「薫・・」
「聞いたのよ、ぐっちゃんから」
「あ、この人が薫さんなんだね」
「どうもはじめまして。沙月の友人で今井薫と申します」
薫はそう言いながら、私の隣に座った。
「はじめまして、飯田陸斗と申します」
飯田は深々と頭を下げた。
「いや~沙月は甘ちゃんですから、私は心配で心配で」
「薫~なに言ってるのよ」
「いや、私はね、沙月が騙されてんじゃないかと思ってましてね」
薫は私の言葉もスルーして、飯田に話しかけていた。
しかも、いきなり失礼なことを。
「あはは、僕が結婚詐欺師、でしょ」
「そうそう、そう思ったんですよ」
「お友達なら心配になるよね」
「おまけに超イケメンでしょ。これは裏があるって普通は思いますよ」
「そんなのもなのかな」
「だって飯田さんみたいな人なら、なにもパーティーへ行かなくても引く手あまたでしょ」
私はあまりに失礼だと思い、薫の袖を引っ張って制した。
「なによ、沙月」
「ちょっと飯田さんに失礼じゃない」
「沙月はいいの。それでね飯田さん」
「なにかな」
「沙月のこと、本気で付き合ってるんですか」
「もちろんだよ」
「沙月のどこに惹かれたんですか」
「僕は二之宮さんに一目惚れしたんだよ」
「一目惚れねぇ・・」
「きみはないの?一目惚れの経験」
「あるっちゃああるけど、でもねぇ」
「ちょっともう、いい加減にして」
私は薫に強い口調で言った。
「沙月・・」
「薫・・酔ってるよ」
「酔ってないって。私が上戸なの知ってるでしょ」
「へぇ~薫さんって飲めるんだね」
飯田が興味を示した。
「私と飲み比べします?勝てないけどね」
「こりゃ心外だな。僕も相当いける口だよ」
「よーしっ。すみませ~ん!」
そう言って薫は店員を呼び、チューハイを注文した。
「っんもう、薫!」
「いいから、いいから」
「よくない!」
「私は酔わないよ。飯田さんを酔わせて本音を訊き出してあげる」
薫は私の耳元でそう囁いた。
そして二人の飲み比べが始まった。
えぇ~~・・なんなのこれ。
薫って合コンの最中じゃないの?
どんどん飲み進めるうちに、ついに飯田が「もうダメだ」と降参した。
薫は顔色一つ変えずに勝ち誇っていた。
「飯田さん~」
薫が呼んだ。
「なっ・・うっ・・なんでしょうか」
「あなた、ほんとは何者なの」
そこで私は再び薫の袖を引っ張った。
「なっ・・何者って・・なにがですか・・」
「沙月と付き合ってるのって本気ですか」
「ほっ・・本気も・・なにも・・」
「どうなの」
「そりゃもう・・本気も本気・・沙月だけですよ」
「じゃあさ、社長ってのもほんとなのね」
「しゃ・・社長・・ああ・・僕は・・社長です・・」
そこで私と薫は顔を見合わせた。
「あの・・飯田さん」
今度は私が声をかけた。
「は・・はいぃ・・」
「社長って・・ほんとなんですか」
「ほっ・・うっ・・気持ち悪い・・」
「あっ、ちょ・・待って!ほら、飯田さん」
薫が慌てて飯田を支えながらトイレへ連れて行った。
私は一人残され、呆然としていた。
社長って・・ほんとだったんだ・・
どんな会社を経営しているんだろう・・
なんでサラリーマンなんて嘘をついたんだろう・・
嘘をつく必要があったから、そうしたのよね。
それは何のため?
私の頭は次第に混乱していった。




