四 デート
―――次の日。ここは社員食堂。
「ああ~今日もいい天気だ」
トレーを持って席についた同僚社員の 今井薫がそう言った。
「そうだね~」
「ちょっと・・沙月」
薫は私の顔をまじまじと見た。
「なに?」
「なにって。なんかあったでしょ」
薫は含み笑いをしながら興味深そうに訊いた。
「別に~」
私は、はぐらかすように答えた。
けれども内心では、訊かれたことが嬉しくもあった。
「なーによ。もったいぶらないで言いなさいってば」
「ふっ~ふ~」
「え・・まさかっ・・」
「うん・・そのまさか、なの」
「ちょちょ・・ちょっと~~!あんたいつの間に」
その声に周りの社員たちが私たちを見た。
「しっ・・し~っ」
「あ・・ああ、ごめん。で、いつからなのよ」
「うん・・昨日ね、婚活パーティーに行ったんだ、私」
「こっ・・婚活パーティー!?」
「うん」
私は、もじもじしながら頷いた。
「でっ!相手の男は?」
「それがさ・・とても素敵な人なの」
「ちょ・・んっもう~~なんで先に言ってくれなかったのよ~」
「だって~相手が見つかるかわからないでしょ」
「わ・た・し・もっ!参加したかったよ~」
薫は私と同い年の二十八だ。
薫も彼氏いない歴は長かった。
それは現在進行形でもあった。
「でっ、名前は?」
「飯田陸斗さん」
「年は?」
「三十」
「どこに住んでるの?」
「都内で一人暮らし」
「んでんで~、肝心の見た目はっ!」
「それはもう、背が高くてハンサムで」
「嘘でしょ!あんた、それ騙されてるわ」
「騙されてないよ。すごく誠実な人なんだよ」
「いいや!騙されてるね。さしずめ結婚詐欺といったところか」
「そんな~・・」
結婚詐欺・・
巷ではよくある話だよね。
「でもさ、結婚詐欺ならそのうち「お金を貸してくれ」とか言うよね」
私は不安をかき消すように言った。
「そりゃね」
「そうなれば即刻別れるわよ」
「っんな~、甘いよ、甘い」
「私はまだ、様子見だもん。それに昨日知り合ったばかりだし」
「沙月!」
薫はテーブルをバンッと叩いた。
「なっ・・なによ」
「いいね、その飯田って人とのこと、今後逐一私に報告すべし」
「ええ~・・」
「こんなのはね、第三者が冷静に見なきゃいけないのっ」
「わ・・わかったわよ・・」
ブーッ
携帯のバイブが鳴り、画面を見た。
あっ、メールだ。
『昨日はどうも。とても楽しかったよ。それで今夜は空いてるかな?』
「なに笑ってんのよ」
私が画面を見て笑っていると、薫がそう言った。
「わ・・笑ってなんかないよ」
「もしかして、飯田か!」
「ちょ・・呼び捨てって・・」
「なによ、なんか言ってきたの?」
「今夜空いてるかって」
「マジで!昨日の今日?」
「別にいいじゃない」
「で、沙月は会うの?」
「どうしようかな・・」
「詐欺師と見極めるためには会うべきかもね」
「詐欺師って・・そんな・・」
「会っちゃいなよ」
「いいのかな・・」
「なんなら?私が着いて行ってあげようか」
「いいよ。私一人で行く」
『こちらこそ、昨日はありがとうございました。今夜は空いてます』
私はこのように返事をした。
すると直ぐに返事がきた。
『お、嬉しいな。それじゃ○○駅前に七時でいいね』
私は当然、了解の返事をした。
「ねぇ、薫」
「なに?」
「私、今日の私服、ダサイんだけど・・」
「っんなもん、いいじゃん」
「あれでいいと思う?」
「昨日会ってるんだし、別にいいじゃん」
「だって昨日は結構お洒落して行ったし」
「そんなね!服装で気持ちが変わるような人なら、脈がないってことよ」
「そ・・そうかな・・」
「あんたさ~・・」
「なに・・」
「相当入れあげてるね」
「そんなこと・・」
「いい?今日は写真撮るのよ」
「え・・」
「私が見てあげる」
そう言って薫は、いたずらな笑みを浮かべた。
仕事も終わり、私は約束の場所で飯田を待っていた。
街はすっかり陽が落ち、私の前を多くのカップルが行き交っていた。
あの中に・・私も入るのよね、今夜から。
やっぱり嬉しいな。
「二之宮さん、ごめん、待ったかな」
私の前に飯田が現れた。
「あ、いえ、今来たところです」
今日の飯田は紺色のスーツに身を固めていた。
その姿は、まるでドラマに出てくるイケメン俳優のようだった。
昨日の私服、あれはあれで似合っていたけど、スーツ姿・・とても素敵だわ。
「二之宮さん、何が食べたい?」
「あ・・えっと、なんでもいいです」
「そう言ってくれると助かるよ」
「え・・」
「なんでも食べる人っていいよね」
「あ・・はい」
「昨日も、何でも食べてたしね」
飯田は私の頭に手を置いて言った。
「あ・・はい」
私は首を少し引いた。
「その服、似合ってるね」
私は白のブラウスと、ピンクのプリーツスカートという服装だった。
「え・・いえ、これはほんとに普段着で・・」
私は思わず胸に手を当てて、ブラウスを掴んだ。
「昨日の二之宮さんも素敵だったけど、僕は普段着の二之宮さんがいいな」
「そ・・そうですか・・」
私は恥ずかしさと嬉しさで、顔から火が出そうだった。
「じゃ、今夜は僕に任せてくれるかな」
「は・・はい」
そして私たちは街の繁華街へ歩き出した。




