三十五 衝撃
権藤たちの話を聞いた薫は、怒りでどうにかなりそうだった。
「そうでしたか・・」
副社長は、それだけ口にして「ふぅ~」とため息をついた。
「私は沙月がそんな酷いことをするなんて、今でも信じてないから」
薫は永埜にそう言った。
「あのさ、言っとくけどね、沙月はあんたの子を妊娠してたんだよ」
それを聞いた永埜は、思わず顔を上げ驚愕していた。
「あんたは二人も殺したんだ。この人殺し!」
「え・・殺したって・・どういうことですか・・」
永埜は不思議に思い、そう訊いた。
「あんたが!沙月を振った後、パトカーが来たでしょ!あれは沙月が車に轢かれて死んだの!」
「そっ・・そんな・・」
永埜も、権藤たちも薫の言葉に驚いていた。
そう、永埜たちは沙月が死んだことを知らなかったのだ。
「沙月は自殺したのよ!」
そう言って薫は、涙を流した。
「なんとか言ったらどうなのよ!」
それでも永埜は無言のままだった。
「今井さん」
副社長は薫を落ち着かせるように、肩を叩いた。
「とにかく、あなたたちのやったことは、れっきとした犯罪だよ」
「でも・・すべてを話せば放免してくれると・・」
権藤が小さな声で言った。
「放免はあり得ないよ」
「えっ・・」
「僕も被害者なんだよ。会社の名誉も傷つけられたしね」
「そんなっ・・」
「今後は法的手段に出るから、そのつもりでね」
そう言われた権藤たちは、うな垂れていた。
「ちなみに、逃亡など考えないでね」
「そんな・・滅相もない・・」
「根本さんでしたか。あなた、今井さんを突き飛ばしてけがを負わせてるよね」
「は・・はい・・」
根本は、蚊の鳴くような声で返事をした。
「それと、あなたたちの誰かが今井さんに脅迫電話もかけてるよね。これは携帯の記録を見れば判明するよ」
「・・・」
「それを指示した権藤さん、あなたにも罪があるね」
「・・・」
「逃亡すれば、こちらも訴えます。刑事事件としてね」
「・・・」
「刑事と民事、両方で多額の賠償金を要求するからね」
副社長が釘を刺したことで、権藤たちは逃げられなくなった。
その後、権藤たちは訴えられ、報酬金の一億円も泡と消えたのだった。
「飯田さん・・この度はなんとお礼を申し上げればよいか・・」
裁判所を出たところで、薫が副社長に頭を下げた。
「なに言ってるの。これは僕の名誉を守るためでもあるんだよ」
「本当にありがとうございました」
「今井さん」
「はい」
「もう復讐はしないよね」
「はい・・」
「前にも言ったけど、きみが犯罪に手を染めることは、二之宮さんは決して喜ばないよ」
「・・・」
「きみは二之宮さんの分まで、しっかり生きること」
「はい・・」
「そして幸せになることだよ」
「わかりました・・」
「それじゃ僕は仕事があるから行くね」
薫は「はい」と言って、再び深々と頭を下げた。
「ああ、そうそう」
副社長は車に乗ろうとしたところで、立ち止まった。
「なんですか」
「また何かあれば、連絡してね」
「え・・」
「これからは、事件とは関係なく今井さんとお話がしたいから」
そして車は走り去って行った。
薫は副社長が何を言いたかったのか、いまいち理解できずにいたが、今回のことでは心の底から副社長に感謝していた。
―――それから一週間後のこと。
ルルル・・
突然、沙月の携帯が鳴った。
自宅にいた薫は、なんだろうと思い、電話に出た。
「もしもし」
「あ、沙月ちゃん?」
聞き覚えのない声だった。
「あ、いえ、私は沙月の友人です」
「え・・そうですか。沙月ちゃんはいますか」
「沙月は・・いません・・」
「え・・どこか行ってるのですか」
「いえ・・」
「あの、私、沙月ちゃんの同級生で加賀谷洋子と申します」
「そうですか・・」
「沙月ちゃん・・どうかしたんですか」
「あの・・沙月は・・亡くなりました・・」
「え・・ええっ!」
「交通事故で・・」
「う・・嘘でしょ・・ほんとですか」
「はい・・」
それから二人は、しばらく黙ったままだった。
「あの・・」
そして薫が口を開いた。
「はい・・」
「沙月に、話でも・・?」
「ああ・・あの、だいぶ前に、沙月ちゃんから高校のクラスメイトのことで電話があって」
「そうですか・・」
「水森英太って男子のことを訊かれたんです」
「水森・・えっ!沙月が訊いたんですか!」
驚いた薫の声に、加賀谷も驚いていた。
「え・・えぇ・・まあ」
「なにを訊いたんですか」
「水森くんって、どんな子だったとか・・」
「どんな子・・」
薫は、権藤たちの話と随分違うことが不可解だった。
それもそのはず、権藤たちの話だと、沙月は水森を弄んだのだから「どんな子」なんて訊くわけがないからだ。
「それで、私は沙月ちゃんとの電話の後、色々と調べたんです」
「そうなんですか」
「まあ、気になってというか・・」
「それで、調べた結果、どうだったんですか」
「沙月ちゃんとの電話で、水森くんは自殺未遂したと話してたんですけど、それは本当だったようです」
「そうですか・・」
「水森くん、ある女子に恋をしてたみたいなんですけど、なんか、フラれちゃったみたいで」
「・・・」
「それで、その後、いじめに遭ってたみたいで。それもその女子が裏ボス的な・・」
「あの、その女子って沙月ですか・・」
「え・・?」
「いや・・沙月じゃないんですか」
「違いますよ!沙月ちゃんは水森くんのこと、ろくに憶えてないんですよ」
「う・・嘘・・沙月じゃないの・・」
薫は、手にしている携帯が持てないほど、体が震えた。
「それって・・誰ですか・・」
「えっと・・みや・・さつきです」
「え・・?」
「四ノ宮皐月って女子ですよ。別のクラスの」
薫は愕然として、体の力が抜け、携帯も床に落ちた。
「もしもし!もしもし!」
沙月の携帯から、加賀谷の叫ぶ声が部屋に響いた。
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