三十四 真相
「島泉、それじゃ頼んだよ」
「はい、承知しました」
副社長は、島泉にボディーガードを付けて地下集団のアジトへ行くことを命じた。
「くれぐれも僕の言ったことを守ること」
「はい」
そして島泉はボディーガード二人を従え、アジトへ向かった。
―――ここは都内の下町。
工場が立ち並ぶ一角に、アジトは存在した。
「きみたち、相手が僕に手を出さない限り、動かないように」
島泉はボディーガードにそう言った。
「はっ」
二人は声を揃えて答えた。
一見すると、何の変哲もない工場のドアを島泉は開けた。
「どちらさま」
一階の作業場で、一人の男が立っていた。
男の顔は、島泉が写真で確認した一人だった。
「突然、申し訳ありません」
「なんですか」
男は島泉の後ろに立っている屈強な二人を見て、戸惑った様子だった。
「権藤義実さんはおられますか」
「え・・」
男は権藤の名前を知る、島泉を不審に思った。
というのも、依頼を実行するとき、決して本名は使わないからだ。
「あなたは、池田吉史さんですね」
本名を言い当てられた池田は、唖然としていた。
「あんた・・誰だ・・」
「飯田陸斗の秘書をやっております、島泉と申します」
池田は「あっ」という表情を浮かべ、裏口へ走った。
「待ちなさい!」
島泉はボディーガードに「行け」と命じた。
すぐさま池田に追いついた二人は、池田を引っ張って島泉のもとへ連れてきた。
「とんでもないことをしてくれましたね」
島泉は池田を睨みつけた。
「お・・俺は・・今回はエキストラだったんだ・・」
「そんなことは聞いてない。権藤をここへ連れて来なさい」
「ご・・権藤さんは・・自宅・・」
「嘘を言うんじゃない。きみたちは全員、ここに住んでいるはずだ」
池田は、そんなことまでバレているのか、といった様子で観念した。
「今は・・出掛けている・・」
「どこへ」
「その・・次の依頼の下見に・・」
「バカ者!」
「ひっ・・」
「電話をかけて呼び戻しなさい」
「・・・」
「早くしなさい!」
怒鳴られた池田は、携帯を取り出し権藤に電話をかけた。
「すぐに戻るそうです・・」
「わかった。では待たせてもらう」
カタン・・
音のする方を見ると、二階の階段の隅から、何人もの顔が見えた。
「きみたち、下りて来なさい」
島泉がそう言えども、彼らは動かなかった。
「みんな、下りてきてくれ!もう・・バレてる」
すると一人ずつ、ゆっくりと階段を下りてきた。
その中には、偽物の飯田も坂槙も受付の女性もいた。
「きみが飯田陸斗くんだね」
島泉は皮肉めいてそう言った。
偽物の飯田の顔は引きつっていた。
「本名は、永埜卓也だね」
島泉は永埜を睨んだ。
「そしてきみは・・」
と、島泉は全員の本名を語った。
ガタンッ・・
振り返って工場の入口を見ると、権藤が現れた。
「どうも権藤さん」
権藤は狐につままれた様子で、ゆっくりと島泉の方へ歩いてきた。
「私はA総合商社の副社長であられる飯田陸斗の秘書をしております、島泉です」
「・・・」
「ご用件は言わずともご理解できますね」
「・・・」
「どんな依頼があったのか知りませんが、あろうことか我が副社長を名乗り、女性を騙すとは言語道断」
「・・・」
「私の指示に従わない場合は、法的手段に出ます」
「指示とは・・なんですか・・」
「わが社へ来て頂き、全てを話してもらいます」
「・・・」
権藤の額には冷や汗が滲んでいた。
「話せば・・放免してくださるんですか・・」
「ええ。そう致します」
「そうですか・・」
「いいですか?一言でも嘘を述べた場合は放免は撤回しますので」
「・・・」
「わが社の調査能力を舐めてはいけませんよ」
「はい・・わかりました・・」
この後、彼ら全員はA総合商社へ向かうことになった。
島泉は即座にマイクロバスを手配し、全員を乗せてA総合商社の裏口から地下駐車場へ入った。
ちなみに、ボディーガード二人もマイクロバスに乗車した。
「副社長、連れて参りました」
副社長室へ入った島泉がそう言った。
「ご苦労様。で、どこにいるの」
「D会議室に閉じ込めてございます」
「うん、わかった。しばらく放置しておいて」
「はい」
副社長は薫を連れて来るつもりでいた。
そして自分も同席し、事の真相を暴こうと考えていた。
夕方になり副社長と島泉は、B社へ向かった。
「今井さん、迎えにきたよ」
ロビーで待っていた薫にそう言った。
「はい」
薫が副社長の家で世話になって、三日が過ぎていた。
「まだスタンガン持ってるの?」
ロビーを出て副社長が訊ねた。
「はい、もちろんです」
「そうなんだね」
副社長はニッコリと微笑んだ。
「さて、今からわが社へ向かうからね」
乗車したところで薫にそう言った。
「え・・どうしてですか」
「連れてきたよ」
「え・・それって・・まさか」
「うん。会議室に閉じ込めてるんだ」
「み・・見つけてくださったんですか!」
「そうだよ」
「あ・・ありがとう・・ありがとうございます・・」
薫は泣くまいと思ったが、思わず涙が零れた。
「事の真相は、今井さんが一番聞くべきだと思うしね」
「は・・はい・・」
「でもね、スタンガンは使わないでね」
「はい・・」
薫は少し笑って涙を拭った。
ほどなくしてA社へ到着し、副社長と島泉と薫はD会議室へ向かった。
島泉は会議室の鍵を開け、ドアを開いた。
縮こまって座っていた彼らを、薫は見渡した。
そして、「飯田」を見つけた。
「い・・飯田・・」
薫は怒りに震えた声でそう言った。
永埜は思わず顔を伏せた。
「飯田!お前~~!」
薫が永埜に駆け寄ろうとすると、副社長が薫の腕を引っ張った。
「今井さん、ダメだよ」
「だって、こいつっ!」
「きみが僕の偽物なんだね」
副社長は永埜に向かってそう言った。
「さすが役者さんだ。イケメンだね」
永埜はずっと下を向いていた。
「でもね、僕の名を語って人を騙すというのは、犯罪だね」
誰も一言も発しなかった。
「さて、権藤さん。そしてみなさん。全てを話してもらうよ。いいね」
そして権藤は観念したように、静かに語り始めた。




