三十二 情報
―――それから三日後。
R興信所から上がってきた情報は、思いのほか早かった。
「早かったですね」
島泉はRの応接室にいた。
「いやね、依頼の内容を伺った時から、ピンときてましてね」
今回の依頼を請け負った末広がそう言った。
「というと?」
「これですよ」
末広はテーブルに資料を広げた。
「こいつら、地下集団なんですよ」
「地下集団・・」
「と言ってもですね、そんな大仰な団体でもないんですよ。まあ、依頼を受けて、ちまちま小銭を稼いでいるやつらです」
「そうですか」
「でね、島泉さんの情報から推測するとですよ、今回の依頼はどうやら大金が動いてますね」
「ほう」
「依頼者は相当な金持ちってことですよ」
「そうですか」
「で、こいつが頭です」
末広は写真を広げた。
「名前は権藤義実。五十三歳。元役者。というか、こいつら全員が役者ですよ」
「ほう」
「元役者もいれば、売れずにこうやってバイトしてるやつもいますよ」
「なるほど」
「こいつがここのピカイチですよ」
それは飯田を演じた永埜だった。
「なるほど、イケメンですか」
「そしてこいつが・・」
と、末広は次々と写真を広げた。
「全員で十五人です」
「そうですか」
「ああ、それとですね、この女性」
末広が見せた写真は薫だった。
「あっ・・」
「ご存じなんですか」
「今井さんじゃないですか」
「そうそう。B社でOLやってる今井薫ですよ」
「ちょっと待ってくれ・・今井さんも仲間なんですか」
「いえいえ、違いますよ。彼女ね、こいつらにつけ狙われてますよ」
「えっ」
「でも、こいつら犯罪は犯さないんですよ。これまで請け負った依頼は、その殆どが別れさせ屋みたいなことです」
「そうですか・・」
「こいつら役者でしょ。演技が上手いんですよ」
「なるほど」
「だからその・・えっと、二之宮さんでしたか、上手く騙されたんだと思いますよ」
「そうですか・・」
「ここに住所も書いてあります。それと申し訳ないんですがね、あいつら電話をコロコロと替えやがるんで、番号は特定できませんでした」
「そうですか。わかりました」
そして島泉は急いで会社に戻った。
「副社長」
島泉は副社長室へ入った。
「どうだった?」
「判明しました」
「そうか。見せて」
島泉は副社長のデスクに資料を置いた。
「それとですね・・副社長」
「なに?」
「今井薫さんに危険が及んでいます」
「えっ!どういうこと」
島泉は末広から聞いた内容を、全て話した。
「うん、わかった」
副社長は直ぐに携帯を手にした。
「あ、今井さん?」
「飯田さん、先日はどうもご馳走様でした」
「それはいいの。えっとね、会社が引けたら迎えに行くので玄関で待っててね」
「え・・」
「いいね、帰っちゃダメだよ」
「どういうことですか」
「いいから。わかった?」
「はい・・」
「じゃね」
そして副社長は資料に目を通していた。
その横で島泉は写真を見ながら説明した。
「今井ちゃ~ん」
更衣室で、三枝が甘ったるい声を出した。
「なによ」
薫はさっさと私服に着替えていた。
「今日、合コンがあるんだけどさ~」
「行かない」
「ええ~即答?」
「うん、用事があるのよ」
「なーんだ。いい男、来るんだけどなぁ~」
「・・・」
「ねぇ~行こうよ~」
「ぐっちゃん、悪い。また今度ね」
薫は更衣室を出て、ロビーで副社長を待った。
何の用があるのかと、薫は些か不思議に思ったが、今回の件だということは、おおよそ予想がついた。
「今井さん」
やがてB社に到着した黒塗りの高級車から、副社長と島泉が下りてきて、ロビーへ足を踏み入れた。
「どうも・・」
薫は一礼した。
「じゃ、行こうか」
「あの・・どこへ行くんですか」
「僕の家」
「えっ!」
「あはは、驚かないでよ。話があるんだ」
「そうですか・・」
ロビーにいた社員たちは、二人の会話を聞いて仰天していた。
けれども薫は全く意に介すことなく、車に乗り込んだ。
「びっくりさせたね」
後部座席に座った副社長は、横に乗った薫にそう言った。
「はい・・」
「実はね、僕の偽物を突き止めたんだ」
「えっ!ほんとですか!」
薫は思わず副社長の方を向いた。
「詳しいことは家に着いてから話すね」
「どうやって突き止めたんですか」
「まあ、色々とね」
「それで、どうして私を飯田さんのお家に?」
「きみ、危険な目に遭わなかった?」
薫はその言葉を聞いて、さらに驚いた。
「どうしてそれを・・」
「やっぱりそうだったんだね」
「以前、脅迫電話がかかってきまして・・」
「そうなんだね」
「・・・」
「あのね、この件が解決するまで、きみは僕の家にいてもらうからね」
「え・・ええ~~?」
「あはは、大きな声だね」
「いえ、私は平気ですから」
「ダメだよ。一人は危険だよ」
「いえ、ほら、これ」
薫はそこで、鞄からスタンガンを取り出した。
「わあ~そんなもの持ってるんだね」
「そうなんですよ。だから自分の身は守れますので大丈夫です」
「でもね、やっぱり女性が一人っていうのは危険だよ」
「そんなことありません」
「それでね、毎日会社へ送り届けるから安心して。もちろん迎えにも行くよ」
「いえっ、結構です」
「頑固だなあ」
「これ以上、飯田さんにご迷惑をお掛けするわけにはいきません」
「迷惑ならこんなことしないよ」
「・・・」
「この件は今井さんだけじゃないの。僕だって被害者なんだからね」
「あの・・私を家へお連れになるの、本気なんですか」
「もちろんだよ」
薫はもう、なるようになれと思った。
それに自分が危険な目に遭っていたことを、副社長は知っていた。
つまり、そこまで調べはついているということだ。
偽物の飯田を見つけ出すのも、そう遠くはないと希望の光が見えた気がした。




