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リベンジ  作者: たらふく
30/35

三十 本物と偽物




「副社長、こちらでしたか」


そこへ秘書と思しき男性が現れた。


「ああ」


男性は薫をチラリと見たが、すぐに副社長に話を続けた。


「この後の予定ですが、今井さんと会食になってます」

「あはは、この女性も今井さんだよ」

「そうですか・・」


男性は再び薫を見て、戸惑っていた。


「いや、僕ね、今夜会う今井さんと間違えてしまってね」

「そうですか」

「それでこの人、僕の偽物がいるって言うんだよ」

「偽物・・ですか・・」


男性はさらに戸惑っていた。


「あの、ほんとなんです」


薫は真剣な表情で言った。


「ほらね」


副社長は笑った。


「副社長・・話が見えてこないのですが」

「ここにいたんです。飯田さんの偽物が」

「ここに?」


副社長は更に笑った。


「私が受付で呼び出してもらったら、あのエスカレータから下りて来たんです」

「どう思う、島泉(しまいづみ)

「さあ・・わたくしは俄かに信じ難いと・・」

「嘘じゃありません。本当なんです」

「それで、あなたと偽物の僕と、ここで何をしてたんですか」

「それには深いわけがありまして・・」

「副社長、そろそろ参りませんと」

「ああ、そうだね。今井さん、申し訳ないが僕は予定があるのでね」

「そうですか・・」

「よかったら後日、話を聞かせてもらうので、これ」


副社長は内ポケットから名刺を出して、薫に渡した。


「すみません・・」


薫は名刺を受け取り、頭を下げた。


「あの、私、○○町のB社という会社でOLやってます。決して怪しい者ではありませんので」

「ああ・・B社ね。知ってるよ」

「そうですか・・」

「じゃ、これで失礼しますね」


そして副社長と島泉は薫の前から去った。


薫は名刺を受け取ったものの、副社長は偽物の飯田を全く知らなかった。

これでは手掛かりが消えたようなものだと落胆した。

けれども何度考えても、A総合商社と偽物の飯田は関わりがあることは間違いない。

偽物の飯田は実際、ここに居たのだから。

薫はそう考え、副社長とコンタクトが取れたこと、そこに一縷の望みを賭けるしかないと思った。



―――それから数日後。


薫が自宅にいると、突然、携帯が鳴った。

画面を見ると非通知だった。

薫は不審に思ったが、とりあえず出ることにした。


「もしもし・・」


薫は様子を覗うように、神妙な声で出た。


「お前」


相手は、男性とも女性とも判別不可能な声だった。

おそらくボイスチェンジャーを使用しているのだと、薫は思った。


「あなた誰よ」

「お前、色々と嗅ぎまわってるらしいな」

「なんのことよ」

「しらばっくれるんじゃない」

「っていうか、あなた誰よ」

「今後も嗅ぎまわると、ろくなことにならないからな」

「脅迫して私がビビるとでも思ってる?」


その実・・薫は恐怖におののいていた。


「忠告したぞ。次はないからな」

「あんた、飯田さん?」


プチッ・・


そこで電話は切れた。


薫の頬を冷たい汗が流れた。

これ以上、A総合商社と、飯田副社長と接触すると命が狙われる。

薫はそう確信した。

けれども薫は、沙月の無念を晴らしてあげたい、その一心で恐怖を克服しようと何とか持ちこたえた。


それから薫はアパートの鍵も替え、さらに増やしもした。

ベランダの鍵も同様にし、まずは不審者の侵入を阻む策を取った。

そしてスタンガンも購入した。



そして薫は、命を狙われないためにも、一日も早く真実に辿り着かなければと思い、副社長に電話をした。


「先日は大変失礼しました、今井薫です」

「ああ、今井さん」


副社長は明るい声だった。

それが薫にとって、能天気だと感じた。


「あの、やはりお話をしたいのですが、よろしいですか」

「実はね、あの後、気になって調べさせたんだけど、どうやら偽物の僕は本当にいたようだよ」

「えっ!」

「それってドラマの撮影だったみたいだよ」

「ドラマの撮影・・?」

「わが社のロビーを借りて、撮影したみたいだよ」

「でも、私が行った時は、カメラとかスタッフのような人はいませんでしたよ」

「それは僕に訊かれてもわからないな」

「それに私はドラマとは無関係です。それっておかしくないですか」

「うーん・・そう言われてもなあ」

「それに飯田陸斗という名前、副社長の本名をドラマに採用します?」

「ああ・・確かにそうだね」

「借りた会社はわかりますか?」

「うん、わかるよ」

「それ、教えてもらえませんか」

「今井さん」

「はい」

「僕の偽物と今井さんとは、どういう関係なの」

「偽物の飯田は、私の親友を弄んで自殺に追い込んだんです」

「ええっ!」

「だから私は許せないんです」

「ちょっと穏やかじゃないね・・。しかも僕の名前を名乗っているし、これは見過ごせないね。あっ、ごめん。僕これから会議があるから切りますね」


そう言って電話は切れた。


ドラマの撮影なんてあり得ない。

けれどもロビーを貸したというのは本当なのだ。


薫はこの時点で、A総合商社が沙月の件に関わっていることは無いと読んだ。



―――それから二日後。


ルルル・・


薫のデスクの電話が鳴った。


「はい、今井です」

「ちょ・・ちょっと・・今井ちゃん」


相手は受付けの、三枝(さえぐさ)秋奈(あきな)だった。


「ぐっちゃん、どうしたのよ」

「今井ちゃん・・ロビーに凄い人が来てるの~」

「誰よ」

「A総合商社の副社長よ~」

「えっ・・」

「でね、今井ちゃんを呼んでほしいって」

「私を・・?」

「早く・・早く下りてきて・・」

「わかった」


薫は急いで一階まで下りた。

狭いロビーには、ちょっとした人だかりがあり、副社長を羨望の目で見る者もいた。


「ああ、今井さん」


副社長は呑気に手を振った。

後ろには秘書の島泉もいた。


「飯田さん・・どうもわざわざ起こし頂いて恐縮です」


薫は小走りで駆け寄った。


「この間は途中で切ってごめんね」

「いいえ、とんでもないです」

「今井さん、お昼を一緒に食べない?」

「えっ・・」

「資料も持ってきたし、今井さんの話をもっと詳しく聞きたくてね」

「そうですか、本当にありがとうございます」

「じゃ、僕はあそこのレストランで待ってるから」


副社長は、道路の向かい側にある、レストランを指した。


「承知しました」

「じゃあね」


そして副社長と島泉は、ロビーを後にした。


「ちょっと今井くん」


別の課の係長が声をかけた。


「はい」

「驚きなんだけど」

「そうですか?」

「きみと副社長、どういう関係なの」


そして薫の周りには、興味津々で人が集まった。


「変な勘ぐりは止めてください」

「今井ちゃん~、一体いつの間に?」


三枝も割り込んできた。


「まるでシンデレラストーリーよね」

「こりゃA社とわが社との関係に、大いに期待できるよな」

「今井さん、羨ましいわ」


周りの者たちは、次から次へと無責任に言葉を発していた。


「うるさい!」


薫は、たまらず怒鳴った。


みんな沙月のことをすっかり忘れ、私がどんな思いで無念を晴らそうとしているか・・


薫はそう思うと、涙が溢れそうになったが、泣いてたまるかと堪えた。

怒鳴られた社員たちは、驚きの目で薫を見ていた。


「どいて!」


その声に社員たちは薫から一歩下がり、薫は階段を上がって行った。

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