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リベンジ  作者: たらふく
29/35

二十九 薫の誓い

               



―――ここは、沙月が車に轢かれた事故現場。


ルルルル・・

ルルルルル・・


沙月が倒れている横で、沙月の携帯電話がけたたましく鳴った。


「しっかり!しっかりしてください!」


沙月を轢いた男は、沙月の頬を激しく叩いたが、もはや手遅れだった。


「ど・・どうしよう・・あっ・・ああ、きゅ・・救急車を・・」


男は慌てて携帯を取り出した。


ルルル・・

ルルルル・・


一旦途切れた沙月の携帯が、再び鳴った。


「え・・この人の携帯・・」


男は沙月の鞄の中から携帯を取り出し、電話に出た。


「あ、沙月?来る前にアイス買ってきてくれない?」


電話は薫からだった。


「え・・」

「・・・」

「あの・・」

「すみません、間違えました」

「いえっ!ちょっと待ってください・・」

「もしかして・・飯田さん?」

「違いますけど・・あの・・実は・・この人を轢いてしまって・・」

「え・・なに・・?」

「それで・・もう死んでる・・」

「嘘・・なに言ってるのよ」

「ど・・どうしよう・・」

「場所はどこ!?」


やがて薫は指定された場所に、タクシーでやって来た。


「え・・うそ・・なによこれ」


薫は沙月の無残な姿を見て、愕然としていた。


「きゅ・・救急車・・」


男はまだ救急車も呼ばずに、沙月の横でうな垂れていた。


「なにやってんのよ!」


薫は急いで119番した。


「沙月!お願い、返事をして!」


薫は沙月の体を抱き、大きな声で叫んだ。


「沙月!なにがあったの!沙月~~!」


薫は号泣した。


「ぼ・・僕の前に・・突然この人が現れて・・」

「飛び込んできたの?」

「ボーッと歩いてる感じで・・車道に出てきたんだ・・」

「ま・・まさか・・沙月、あんた・・まさか・・」

「む・・夢遊病みたいに・・」

「そんなっ・・嘘でしょ・・」


薫は沙月が自殺を図ったと感じた。

そして後ろに(そび)え立っているタワーマンションを見上げた。

薫は思った。

ここが飯田の住むマンションなのだと。


やがて救急車が到着し、次第に辺りは人が集まってきた。

薫は男から沙月の携帯を受け取り、救急車に乗った。

警察も到着し、男はパトカーに乗せられて行った。


薫は沙月の死に顔を見ながら、猛然と怒りが湧いてきた。


飯田の野郎・・絶対に許さない。


そして薫は、自分が沙月を家に呼んだことを死ぬほど後悔していた。

そしてこうも思った。

互いに口も利かなくなり、ろくに話も聞かなかったことを、身がよじれるほど悔いた。


病院に到着し、検査が終わった後、医師がこう告げた。


「二之宮さんですが・・妊娠しておられましたね」

「えっ!」

「お気の毒です・・」


そう。

沙月は妊娠していたのだ。

飯田の子を・・


飯田は二人殺したんだと、薫の怒りは更に増幅された。



―――沙月が死んで二週間が過ぎた。


薫はほんの少しだけ落ち着きを取り戻し、飯田に電話を掛けることにした。


「お客さまがお掛けになった電話番号は、現在使われておりません」


コンピューターガイダンスが流れてきた。

あろうことか、飯田は携帯を替えたのだ。

薫はそのことに、飯田の卑怯な人間性を見た。


薫の目算では、飯田はあんな男だが、何度か会った印象からすると、話くらいは出来ると思っていた。

それが話しどころか、とっとと逃げてしまったのだ。

これをきっかけに、薫は沙月の無念を晴らすため、飯田に復讐を誓うのであった。


まず薫が動くべきだと考えたのは、A総合商社へ出向くことだった。

そのため事前調査として、A総合商社のHPを開いてみた。

そこには事業内容や会社の方針と理念など、飯田とあまり関係のない内容が書かれてあった。


そして薫はウィキを開いた。


「えっと・・どれだ・・」


そこで薫は家族構成を読んだ。


「なになに・・現在の社長は飯田(いいだ) 浩司(こうじ)。なるほど、こいつが父親だな。妻の加代(かよ)。長男の陸斗と次男の海斗(かいと)か」


薫は次に「飯田陸斗 画像」で検索した。

すると全く別人の画像が、溢れるほど出てきた。


「え・・なによ、これ」


薫は別のページも次々と開いてみた。

けれども、あの飯田陸斗の画像は一枚も出てこなかった。


「あいつ・・偽物だったのか・・」


薫は思った。

沙月と飯田が付き合っている時点で・・いや、付き合う前にネットで調べるべきだったと、今更ながら後悔した。


「まてよ・・?私は一度、飯田に文句言うためにあの会社へ行ったよな。あいつ・・しらっと現れたぞ。しかも受付の女性は飯田を呼び出していたぞ・・一体、なんなんだ・・」


今回のことは、天下のA総合商社が絡んでいたのか・・と知った薫は、言いようのない恐怖を覚えた。

けれども、A総合商社と沙月との繋がりが、全く見えない。

沙月が飯田と出会う前にも、沙月からA総合商社のAの字すら聞いたこともない。

薫は勘が鋭い方だ。

沙月に不審な動きや言動があれば、いや、顔を見るだけでわかるほどにだ。

その薫が全く察知できなかったのだから、いわば接点は皆無としか思えなかった。


それでも薫は、手掛かりはA総合商社にしかないと、翌日出向くことにした。



―――次の日、薫は会社が引けたその足でA総合商社へ向かった。


受付けへ行くと、以前とは別の女性が座っていた。


「すみません」


薫は女性にそう言った。


「いらっしゃいませ」


女性は丁寧に頭を下げた。


「ここに飯田陸斗さんがおられますね」

「え・・それは、副社長のことでございますか」

「はい」

「大変失礼かと存じますが、副社長とはどのようなご関係でございますか」

「訊きたいことがあるんです」

「そう申されましても・・。あの、お名前をお聞かせ願えますか」

「今井薫と申します。以前、ここで飯田さんに会ったことがあるんです」


薫は飯田が偽物だとわかっていたが、あえてそう言った。


「そうでございますか・・」

「お願いします、取り次いで頂けませんか」

「左様でございますか・・少々お待ちくださいませ」


女性は戸惑いながらも、内線電話で問い合わせていた。


「今井さま・・ただ今飯田が参りますので、あちらのソファでお掛けになってお待ちください」

「はい」


薫は、本物の飯田がまさか会ってくれるとは思いもしなかった。

けれども驚きの表情は見せなかった。

あくまでも、知り合いを装った。


薫がソファで待っていると、あの画像の人物が怪訝な表情を浮かべながら薫の前にやって来た。


「あ・・すみません・・」


薫は立って一礼した。


「あれ・・僕の知ってる今井さんじゃないですね・・」


飯田はどうやら、今井という知り合いが会いに来たのだと勘違いしたのだ。


「僕に何か用ですか」


飯田はふっくらとしていて、物腰も柔らかい人だった。


「あの・・いきなりこんなこと訊くのは失礼と承知していますが、二之宮沙月という女性はご存知でしょうか」

「二之宮・・?いえ、全く存じませんが」

「そうですか・・」

「二之宮さんがどうかされました?」

「もう一つ訊きたいことがあるのですが」

「なんでしょう」

「あなたの偽物、つまり飯田陸斗の偽物が存在していたのですが、そのことはご存知ですか」

「あはは、僕の偽物?どこに?」

「数か月前・・いえ、ついこの間まで、ここに偽物がいたんです」

「それは何の冗談ですか」

「ほんとにいたんです」

「僕はつい最近まで海外にいましたよ」

「海外・・」


薫は、偽物の飯田は、副社長が海外へ行っていたことを悪用したのだと思った。

しかも飯田だけではない。

なにか組織的に動いているのでは、とも感じた。

そしてこのA総合商社にも、一枚噛んでいる人物がいると悟った。

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