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リベンジ  作者: たらふく
23/35

二十三 計算外




「おい、須田(すだ)


権頭が須田という男を呼んだ。


「おまえ、今日から二之宮に張り付け」

「ストーカーですか」


彼らの間では張り付くことを「ストーカー」と呼んでいた。


「そうだ。二之宮の行動を把握し、先回りして次の策をうつんだ」

「わかりました」

「永埜には、しばらくメール作戦をとらせいてる」

「はい」

「逐一報告しろよ」

「了解です」



そして須田が沙月に張り付いて十日が過ぎた。


「永埜さん、いま、二之宮が会社を出ました」


須田が永埜に電話をした。

今日は十日ぶりに、沙月と永埜が会う日だった。


「わかった。今から向かう」


永埜は沙月より先に着くように、待ち合わせ場所へ急いだ。



「飯田さん」


しばらくすると、沙月が小走りで永埜に駆け寄ってきた。


「こんばんは、久しぶりだね」


永埜は輝くような笑顔を沙月に向けた。

そして照れる沙月を見て、この十日間のメール作戦はバッチリったと手ごたえを感じた。


「お待たせして・・」と顔を背ける沙月の頭に、永埜は手を置いて「二之宮さんのためなら、何時間でも待つよ」と臭いセリフを吐いた。

そしてここぞとばかりに、永埜は沙月の手を握った。


男女間で、相手の体の一部に触れるということが、なにを意味するか永埜は十分心得ていた。

思惑通り、沙月は永埜を拒否することは無かった。


そして二人は、チェーン店の居酒屋へ入った。

二人を追って、須田も後から入店した。

須田は、二人の会話を聞ける距離の席を選んで座った。


永埜は沙月との会話を順調に進め、やがて「沙月って呼んでもいいかな」という札を切った。

名前で呼ぶ仲、というのは、恋人であれば当然のことだ。

それによって、一気に距離も縮まるからだ。


このまま距離を縮めて、できれば次の店へと考えていた永埜の前に、今井薫が現れた。

これは永埜にとって、計算外の出来事だった。


グイグイ押してくる薫を、永埜は適当にかわしていたが、成り行き上飲み比べが始まった。

酒に弱くはない永埜は、ここでねじ伏せてやろうと意気込んだが、結局酔ってしまい、もっと先に社長だと打ち明けるはずが、この場で言ってしまった。


一人で外に出た永埜を追いかけて、須田が駆け寄った。


「永埜さん、なにやってんですか」

「ああ・・?うっ・・」


須田は永埜の体を支えた。


「社長って言ったでしょ」

「う・・ああ・・言ったっけ・・」

「計画が狂っちゃうじゃないですか」

「悪い・・うっ・・気持ち悪い・・」

「仕方がないな・・」


須田はタクシーを止め、二人はアジトへ帰って行った。



翌日、永埜と須田から報告を聞いた権藤は「うーん」と頭を抱えていた。


「計画ではな、さんざんじらした後、A社へ二之宮を連れて行き、「ここが僕の会社だよ」とサプライズするはずだっただろう」

「すみません」


永埜は失態を詫びた。


「まあ今さら言っても仕方がない。それで今井薫だが、こいつは邪魔だな」

「かなり勝気な女です」

「わかった。おい、根本(ねもと)!」


権藤は根本という男を呼んだ。

根本は二階から急いで下りてきた。


「なんですか」

「今日からお前は、今井薫に張り付け」

「今井薫?誰ですか」

「二之宮の友達だ」

「今回の件と関係あるんですか」

「今井は邪魔な存在だ」

「そうですか。わかりました」

「それから永埜」

「はい」

「きっと二之宮は、お前が社長なのかを訊いてくるはずだ」

「はい」

「そうだと言え。但し、次期社長だぞ」


作戦では少し時間を置いて連絡する手はずになっていたが、二日後、沙月から連絡があった。

ここで断ると反って怪しまれると思った権藤は、永埜と沙月を会わせることにした。


先に待ち合わせ場所で待っていた永埜の前に、沙月が小走りで駆け寄ってきた。

そして案の定、沙月が「社長なのか」と、永埜に訊いてきた。

永埜は、仕方がないな、といった風にじらす演技をして見せた。

すると沙月は「全部本当のことを話して」と迫った。


永埜はこのタイミングだと思い、やがてA総合商社の次期社長であることを告げた。

永埜の思惑では、てっきり食いついて来るものだと高を括っていたが、沙月の反応は逆だった。

焦った永埜は、次から次へと沙月を引き止める言葉を発したが、沙月の態度は変わらなかった。



アジトへ帰った永埜から報告を受けた権藤は、「しまったな・・」とこぼした。


「二之宮は、その辺の女とは違いますよ」


永埜がそう言った。


「女なんてのは、お前のような容姿だけでもフラつくものだ。それに加えてA社の次期社長だぞ。舞い上がりこそすれ、引くなんてな・・」

「どうしますか」

「絶対に逃がすわけにはいかない」

「多分、断って来ると思うんですが、そしたらどうします」

「また考える」


後日、永埜の予想通り、沙月は付き合いを断ってきた。

永埜はなんとか引き止めようと必死だったが、失敗に終わった。



―――彼らは頭を抱え、次の策を考えていた。


「権藤さん」


そこに依頼者である、松樹(まつき)琉璃(るり)がアジトに入ってきた。


「ああっ、これは松樹さん」


権頭が立ち上がると、全員、同じように一斉に立ち上がった。


「薄汚いところですが、どうぞ」


権藤は、自分たちが座っていたソファに案内した。


「どう?事は上手く運んでるの」


松樹は腰を下ろしてそう言った。


「ええ、そりゃもう・・」


権藤は少し言いにくそうに言った。


「これまでの経緯を、正直に話して」


松樹は権藤の様子を見て、上手くいってないことを察した。

権藤の話を聞いた松樹は、次の提案をした。


「飯田には婚約者がいる設定よね」

「はい、仰せの通りで」

「その婚約者役、私がやるわ」

「えっ・・」


役者でもない素人には無理だというような表情に、権藤だけでなく全員がそうなった。

そう、この得体のしれない集団は、全員が役者なのだ。


「松樹さん、セリフは全部アドリブですよ」

「かわまないわ」

「バレたらそこで終わりですよ」

「言っとくけど、私は演技をするつもりはないの」

「え・・」

「あいつの・・二之宮の引きつった顔を私自身が見たいのよ」


松樹の鬼のような形相に、権藤たちは戦慄めいたものを覚えた。


「あいつは・・私の大切な人を・・」


松樹はそう言いながら、手にしていたハンカチをグシャッと握りつぶした。


「それでいいわね」


松樹は権藤に確認した。


「はい、わかりました」

「手筈が整ったら、連絡をちょうだい」


そして松樹はアジトを後にした。

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