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リベンジ  作者: たらふく
22/35

二十二 依頼

           



―――ここは都内の下町に建っている、とある工場の中。


「おーい、みんな聞いてくれ」


権藤(ごんどう)義実(よしみ)がみんなを呼び寄せた。


「今回の依頼はすごいぞ」


権藤は含み笑いをし、他の者はどんな仕事かと息をのんだ。


「依頼者は松樹(まつき)琉璃(るり)。とある地主の大金持ちだ。それで内容なんだが、ターゲットは二之宮沙月、年は二十八歳。二之宮を騙して惚れさせ、その後、捨てる。これだけだ」

「それなら永埜(ながの)以外にいませんね」


池田(いけだ)吉史(よしふみ)がそう言った。


「それで、報酬は一億だ」


権藤がそう言うと、他の者たちは悲鳴にも似た叫び声をあげた。


「い・・一億っすか!」


(とまり)秀夫(ひでお)がそう言った。


「これは破格だ。だから絶対に失敗は許されない」

「でも依頼主さん、なんで一億も」


また泊が訊いた。


「なんでも二之宮には、相当な怨みを持っているらしい。昔、色々あったみたいだな」


そして権藤は続けた。


「キャストはもう決めてある。池田のいう通り二之宮を落とすのは永埜、お前だ」

「はい」

「永埜には飯田陸斗を装ってもらう」

「飯田陸斗って・・あの一流企業の?」


浅井(あさい)百合子(ゆりこ)がそう訊いた。


「そうだ。副社長だ。だがそこは最初から、というわけではない。まずは二之宮に近づいてもらう。あくまでもサラリーマンとしてな。そこでだ、二之宮は、ある婚活パーディー参加する予定だ。そこへ永埜を送り込む。でだ、いいか永埜」

「はい」

「なにがなんでも二之宮を落とせ」

「はい」

「どんな手段を使ってもかまわない」

「はい」

「とにかく一日でも早く、二之宮の心を掴め。お前の使命はそれだけだ」

「わかりました」


こうして役の設定が次々と決められていき、綿密な打ち合わせも終えた。



そして婚活パーティーの日が訪れた。


永埜はサラリーマンが装うような、さっぱりとした服に身を包み、会場に入った。

沙月が座る席には、仲間の遠藤と大橋、女性二人を座らせていた。


永埜の席は、入り口に近い場所だった。

中央に座る沙月を、永埜はじっと見つめていた。


ほどなくして主催者の挨拶も終わり、いよいよパーティーが始まった。

遠藤と大橋は立ち上がり、沙月が一人になったところへ永埜が近寄った。


「こんにちは」


永埜は沙月に声をかけた。


「あ・・どうも、こんにちは」

「この席、いいですか」

「え・・あ、はい、どうぞ」


そして永埜は飯田陸斗を演じきることに務めた。

まずは終始、優しく微笑み、いかにも女性が喜びそうな甘言を次から次へと発した。


ジーッジーッ・・


そこで永埜の携帯が鳴った。

画面を見ると権藤だった。


「あ、ごめん、ちょっと外すね」


永埜はそう言って会場を出た。


「もしもし」

「永埜、押すばかりじゃダメだ。反って怪しまれる」


永埜は上着の内ポケットに、ワイヤレスマイクを仕込んでいた。


「わかりました」


そして永埜は沙月のもとへ戻った。


「ごめんね」


永埜は再び席に着いた。


「急用ですか・・?」

「ううん」

「そうですか・・」

「あの、悪いんだけど」

「え・・」

「僕、やっぱり他の女性にも声かけたいんだけど、いいかな」


永埜は沙月の心を不安にさせる策に出た。

その結果、永埜の思惑通り、沙月は永埜のことが気になり始めていた。


「永埜さん、二之宮の様子はどう?」


大橋が訊いた。

永埜と大橋と遠藤は、他の客の中に紛れ、さも交流を楽しんでいる風に装った。


「まだわからないけど、手ごたえはあるよ」

「焦らないでね。なんせ一億だから」


遠藤がそう言った。


「あんまりプレッシャーかけるなよ」


永埜はそう言ったが、その実、表情は自信に満ち溢れていた。


「こっち見てるわよ」


大橋は、わざと永埜に顔を近づけて言った。


「呆然としてるわね」


遠藤も永埜に近づいて言った。

時折むくれる沙月を見て、永埜はしめしめと思うのだった。


こうして沙月は、まんまと永埜の術中に嵌ってしまい、早くも二人はカップルとなったのだ。



この日、アジトでは次の策を練っていた。


「永埜、明日、二之宮を誘え」

「え・・もう、ですか」

「ここは畳みかけるんだよ」

「ちょっと時間を置いて、なんなら向こうから連絡させるとか」

「ダメだ。駆け引きなど必要ない。とにかく押して押して押しまくるんだ」

「わかりました」

「それで明日は、居酒屋へ連れて行け」

「借りた店ですね」

「ああ、そうだ。それで高橋(たかはし)、店長役頼んだぞ」

「はい、わかりました」

「それと篠原(しのはら)、お前は店員な」

「はい」

「うまくやってくれよ」


そして高橋と篠原は、綿密な打ち合わせをしていた。


次の日、永埜は沙月を連れ、居酒屋へ向かった。


「ここね、僕の行きつけの店なんだよ」


永埜はそう言って戸を開けた。

すると太一役の篠原が、わざとらしく元気な声で「いらっしゃい!」と言った。

店長役の高橋も、いかにもそれらしい演技で店長に徹した。


そして高橋は「飯田さんね、女性をお連れになるのは初めてなんですよ」と、しらじらしいセリフを吐いた。

そうなのだ。

永埜が直接言うより、第三者、しかも行きつけの店である店長がいうことに意味があったのだ。

その後、永埜が「さっきね、おやじさんが言ってたこと、本当なんだよ」と言ったことで、更に輪をかけた形になり、沙月は信じてしまうのであった。


永埜と沙月が店を出た後、坂槙役の泊秀夫が二人の様子を覗っていた。


「泊、失敗するなよ」


同行していた池田がそう言った。


「へまなんかするかよ。だって一億だぜ」


泊はタイミングを見計らい、二人の前に姿を現した。


「あ、飯田社長!」


泊は永埜の同僚という設定だ。

泊が「社長」と呼んだことで、沙月の心を惑わす手に出た。

女性なら誰もが憧れるであろう社長夫人。

そのことを臭わせて、沙月の心を掴む作戦だった。


そして永埜が「あだ名だよ」とはぐらかすことで、更なる謎を与えたのだ。

このことによって、沙月の気持ちが一気に傾くと永埜も泊も読んでいたのだ。

けれどもこの作戦は、のちに逆効果となるのであった。

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