表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リベンジ  作者: たらふく
17/35

十七 父親の怒り

             



―――それから一ヶ月が過ぎた。


私と飯田はこの(かん)、急速に接近し、既に男女の関係になっていた。


「あ・・もう起きたの」


ベッドから飯田が、眠そうな声で私に訊いた。


「陸斗さん、もうすぐ朝ごはんが出来るからね」


私はキッチンで朝食の準備をしていた。

昨日も飯田のマンションに泊まったのだ。


「沙月、いつもありがとう」

「出来るまで寝てていいよ」

「ふわぁ~」


飯田は大きく背伸びをし、ベッドから下りた。


「今日は何かな~」


飯田がキッチンへ来て、私を後ろから抱きしめた。


「ほらほら陸斗さん。邪魔しないで」

「あ~オニオンスープだね」

「陸斗さん、好きでしょ」

「嬉しいな」

「ほら、陸斗さんあっちで座ってて」

「しょうがないなあ~」


飯田は子供の様にむくれて、ダイニングの椅子に座った。

私は幸せをかみしめていた。

飯田ならきっと私を幸せにしてくれると、根拠のない確信めいたものを感じていた。

そして私も飯田を幸せにしようと思っていた。


「沙月、今日は予定あるの?」


朝食を済ませ、私たちは並んでリビングのソファに座っていた。


「ううん、ないよ」

「僕も休みだし、どっか行こうか」

「わあーいいね!」

「どこがいい?」

「陸斗さんとならどこでも」

「沙月はほんとにかわいいね」


ピンポーン!


突然、インターホンが鳴った。

飯田は怪訝な顔をしながら立ち上がった。


「はい、どちらさまですか。えっ・・なんだよ、いきなり。困るよ。いや・・帰ってくれ」


飯田の顔が急に曇った。


誰だろう・・

陸斗さんがあんな顔するなんて・・


「まったく・・わかったよ」


そこで飯田はインターホンを切った。


「陸斗さん・・誰なの」

「親父・・」

「ええっ!」

「入って来るけど、沙月は気にしなくていいからね」

「わっ・・私・・隠れてようか・・?」

「ううん。そこにいて」


ほどなくして飯田は玄関の鍵を開けに行った。


「なにしに来たんだよ」

「陸斗!お前、妙な女と付き合ってるらしいじゃないか」

「親父には関係ないことだ」

「その話をしに来たんだ」

「勝手に入れば」


ズカズカと中に入ってきた飯田の父親は私を見て、怒りにも似た表情になっていた。

私はソファから立ち上がり、一礼した。

父親は、まさに私があの日偶然見た、A総合商社の社長だった。


「こいつか!」

「親父!なんだよ、その言い方」

「お前、結婚相手がいながら、なにをやってるんだ!」


え・・

結婚相手・・?

私は思わず飯田を見た。


「だから何度言えばわかるんだ。僕は彩絵(さえ)さんとは結婚しない」

「バカなことを!この縁談を何と心得ているのか!」

「僕は断ったはずだ!」

「きみ・・」


父親は私を見た。


「はい・・」

「きみの目的はなんだ」

「目的・・?」

「とぼけるんじゃない。なんだ、言ってみたまえ」

「仰ってる意味がわかりません」

「金か、名声かと訊いてるんだ」

「親父!いい加減にしろよ。沙月はそんな女性じゃない!」

「こんな小娘にたぶらかされおって、このバカが」

「沙月、こんなやつの言うこと、聞くことないからね」


私は唖然として言葉も出なかった。

飯田に結婚相手がいたのだ。


「陸斗さん・・」

「なに・・?」

「結婚相手ってどういうことですか・・」

「僕は相手とは思ってない」

「でも、いるのは確かなんでしょう?」

「僕は無理やり見合いをさせられただけだ」


あ・・そう言えば・・


以前、坂槙がそんなことを言っていた。

無理やり拉致されて連れて行かれたと。


そうか・・そのことなんだ。


「その方とは、今もお付き合いをしているの?」

「上辺だけだよ」

「え・・」


嘘・・

例え上辺だけだとしても・・付き合ってるんだ・・

どうして隠してたの?


「私・・帰ります」

「沙月!話を聞いてくれないかな」

「えぇ~い、ごちゃごちゃと。きみ、さっさと帰りたまえ」

「親父は黙っててくれ!」

「陸斗!あちらは乗り気なんだぞ。この機会にだな、経営統合してさらにわが社は発展を遂げるんだぞ!」

「僕を利用しないでくれ!」

「バカ者!」


そこで父親は飯田の頬を叩いた。


「や・・やめてください!」


私は思わず叫んだ。


「僕は親父の言いなりになんかなにないから!」

「青二才が偉そうに言うんじゃない!」


二人には私の声が届いてなかった。


「私、ほんとに今日は帰りますから!」

「沙月、なに言ってるんだよ」

「ああ、帰りたまえ。そして二度と陸斗には会うな」


引き止める飯田を振り切って、私は部屋を後にした。


なんてことなの・・

私が描いていた困難とは程遠いくらい・・


飯田は見合いをして、いわば仕方なく付き合っていたに違いない。

あんな父親だ。

無視したくても出来なかったのだろう。

跡継ぎという立場もある。


飯田は決して私に隠したくて隠したのではない。

私が嫌な思いをするのがわかっていたからだろう。

それに言ってしまえば、私が別れると思ったのだろう。

飯田はそれが嫌だったのだ。


それにしても大変だ・・

あの父親を説得するには、これから何度も辛い思いをしないといけないんだな・・

そうか・・

飯田が「僕が沙月を守る」と何度も言ったのは・・こういうことだったんだ・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ