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リベンジ  作者: たらふく
12/35

十二 飯田の事情

              



「それにしても沙月。あんた、よく行ったよね」


二日後、私と薫は居酒屋にいた。


「まあね。でもこれですっきりしたわ」

「ほんとにそれでいいの?」

「薫は最初から反対してたじゃない」

「そりゃそうだけどさ~。「また会えた」「淋しくなるね」なんてさ、向こうは未練タラタラじゃん」

「私のどこがいいのか、まったくわからないけど、向こうは御曹司なんだし、直ぐに相手が見つかるよ」

「まあまあ、私たちも次の獲物をゲット~~!ってことでさ」


そう言って薫はビールを一気飲みした。


「はぁ~・・ほんと強いよね」


私は半ば呆れて言った。


「私にとっちゃビールなんて水と同じだよ。お兄さ~ん、これ、おかわり!」


薫はジョッキを掲げて、店員に示した。


「ああっ!いたいた~~」


そこに突然、坂槙が現れ、私たちのテーブルまで来た。


「あら、坂槙さんじゃん」


薫が坂槙にそう言いながら、近くに飯田の姿を探している風だった。


「なんか、いると思ったんだよね~」


坂槙は図々しくも、薫の横に座った。


「え、あんた一人なの」

「そう」

「で、なに?私たちを探してたの」

「まあね」


そこで坂槙は私を見た。


「二之宮さん」

「はい・・なんですか」

「いやっ、先にビールだな」


坂槙は店員を呼んだ。

私は坂槙が、飯田のことで話をしに来たと直感した。


やがてビールが運ばれ、私たちは乾杯した。


「ちょっと坂槙さん、話があるならさっさと言ってよ」


薫がそう急かした。


「二之宮さん」

「はい」

「あなた、このまま社長と別れて、それでいいんですか」

「どういうことですか・・」

「くそっ・・おーい!お兄さん!おかわり!」


坂槙は鼻をズズッとすすった。


え・・泣いてる・・?


「おーい、坂槙~~話とはなんだ」


薫は坂槙の肩を叩いた。


「二之宮さん」

「はい」

「社長にお見合いの話が持ち上がってるんですよ」

「はぁ・・」

「社長ね、社長に無理やりに話を進められてて・・」

「あんたさ、ややこしいんだよ。飯田って言いなよ」


薫がすかさず突っ込みを入れた。


「あぁ・・すみません。えっと、陸斗は」

「陸斗かいっ!まあいいわ、で、陸斗がどうしたの」

「陸斗は絶対に嫌だと言って、頑なに拒否してるんですけど、もう無理やりも無理やりで。この間なんか、あっ!二之宮さんがわが社に来た時ですよ」

「ああ・・おとといですね・・」

「あの日、相手と会わされたんですよ」

「そうですか・・」

「知ってます?」

「なにをですか・・」

「陸斗はね、僕には好きな人がいるんだ。だからお見合いなんてしない!って言って、社長と大喧嘩したんだけど、もう半ば拉致状態で無理やり車に乗せられて・・」

「・・・」

「二之宮さん!ほんとに別れてもいいんですか!僕は陸斗が可哀そうでならないですよ」

「そんなこと言われても・・」

「このままだと陸斗は、したくもない結婚をしなければならないんですよ」

「あのさ、坂槙」


薫は坂槙の肩に手を回した。


「飯田さんは大会社の御曹司。当然、次の跡継ぎを作らなきゃいけない。政略結婚なんて五万とあるし、したくなくてもするのが立場ってもんでしょ。飯田さんさ、それわかってんの?」

「わかってますよ!わかってるけど、二之宮さんと出会ってしまったから、どうしようもないんですよ」

「飯田さんさ・・そんなに沙月のことが好きなんだ」

「そうですよ!」


私は唖然として言葉も出なかった。

私のことを好きなのはわかっていたけど、まさか、これほどまでとは。


「陸斗は自分の気持ちを抑えるのに精一杯で、昨日なんかさ・・「なあ、坂槙。どうして僕はこの家に生まれたんだろう。もっと普通の家に生まれていれば、沙月と結婚できたのかな」って言ってましたよ」


その言葉に、薫も黙ってしまった。


「二之宮さん・・」

「はい・・」

「結婚とまではいかなくても、付き合いを続けることは無理なんすか・・」

「・・・」

「わかってます、わかってますよ。二之宮さんだって別の人と早く結婚したいだろうし、陸斗と付き合うなんて時間の無駄だってことは、わかってますよ」

「・・・」

「僕のお節介かも知れないけど、あいつに本当の恋愛ってものを経験させてやりたいんすよ・・」

「坂槙、あんたの気持ちもわかるけどさ、沙月を「実験台」に使わないでよ」

「実験台なんて、そんな滅相もないっすよ!」

「この話は、もう終わったことなの。諦めなさい」

「二之宮さんが陸斗のことが嫌いなら引き下がりますけど、二之宮さん、どうなんすか!」

「え・・どう・・って・・」

「好きじゃないんすか」

「坂槙!いい加減にしなさいよ。これ以上、沙月を困らせると私、許さないわよ」

「薫・・落ち着いて・・」


飯田が見合いをして結婚するなら、これ以上のことはない。

というか・・ほんとはそれが取るべき道。

仮に私と付き合いを続けても、いつかは終わりが来る。

それは本当に時間の無駄だ。


でも・・飯田さん、苦しんでるんだ・・

でも・・どうして私なの・・?


「僕の言いたいことはそれだけっす」


坂槙は我に返ったように、席を立った。


「帰るんだ」


薫が見上げてそう言った。


「帰ります。二之宮さん、あと一度だけでいいっすから、考えてください」


坂槙は一万円をテーブルに置いて、店を出て行った。


「ちょ・・これ!」


薫は引き止めようとしたが、間に合わずに諦めた。


「いやあ~、それにしても飯田さん。沙月にぞっこんだね」

「どうして私なのかしら・・」

「恋愛ってそういうもんでしょ」

「そりゃそうだけど・・」

「私は時間の無駄だと思うよ」

「・・・」

「あっちはさ、一定期間、沙月と付き合っても、その後、別の人と結婚じゃん。しかも直ぐに」

「うん・・」

「あんたは取り残されるだけなの。そこ、わかってるよね」

「うん・・」

「まあ、坂槙の独りよがりの愚痴だよ、あんなの」

「・・・」

「絶対にダメだからね」


確かに薫の言う通りだ。

私もダメだってことは、わかってる。

わかってるけど・・

飯田さんの気持ちを思うと・・切ない。


五年前に別れた彼は、ここまで私を思ってくれなかった。

自分勝手で、私の気持ちなんて考えてくれなかった。

でも・・飯田さんは見合いを拒否してまで私のことを・・

飯田さんが言ったように、私も思う。

なんで一般家庭に生まれてくれなかったの、と。

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