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リベンジ  作者: たらふく
11/35

十一 A総合商社




次の日、私は残業をせず、五時になって急いで更衣室へ向かった。

そう・・私はこの後、A総合商社へ向かうと決めていた。

飯田のケガの具合も気になったし、やはり私は飯田にもう一度会って、きちんと謝ろうと思ったのだ。

飯田があれだけ私を思ってくれていたにも関わらず、付き合いを断るのに、いくらなんでも電話では失礼だったと後悔したからだ。


「沙月~~」


薫が大慌てで追いかけてきた。


「ちょっとあんた、なに急いでんのよ」


追いついた薫は私の肩に手を置いた。


「用事があってね・・」

「なによ、この私に隠し事?」

「いや・・別に隠してるわけじゃないんだけど・・」


私は今日は一人で行きたかったのだ。


「どこ行くのよ」

「それは・・」

「えっ・・まさか、飯田さんの会社?」


はぁ・・薫は勘が鋭いんだから・・


「どうなのよっ」

「うん・・」

「ちょ・・沙月、なんでまた」

「ケガの具合とか・・気になったし」

「とか?とかってなによ。他は」

「やっぱりさ・・ちゃんと謝ろうと思って」

「ああ~・・電話でサヨナラの件ね」


薫・・あなた何者よ・・

私の心が見えてるの?


「まあ・・そうかな」

「じゃ、私も行く~」

「いや・・今日は私一人で行きたいの」

「なんでよ」

「・・・」

「私がまた余計なことを言うと思ってんでしょ」


うわあ・・図星。


「そんなことないよ・・」

「私はねっ、これでもTPOは弁えてるつもり」

「・・・」

「あはは、冗談だよ。いってらっしゃい」

「え・・いいの」

「でもさ~・・心配なんだよ」

「なにが・・」

「あんた、フラフラ~ッと行っちゃうんじゃないかと思ってさ」

「ないない、謝りに行くだけ」

「絶対よ?」

「うん」


そして私は急いで私服に着替え、会社を出た。

A総合商社は都心の一等地にあった。

私は電車を乗り継ぎ、やがて最寄り駅についた。


数々のビル群には、一流企業が名を連ねてそびえ建っている。

その中にA総合商社も他企業と肩を並べていた。


あそこだわ・・

私は一階のロビーに足を踏み入れた。

ロビーはとても広く、中央あたりにエスカレータも設置されてあった。

右側にはエレベータホール、そこを通り過ぎると喫茶店。

左側にはソファーセットが設置されてあり、観葉植物が夕日を浴びていた。


私は足のすくむ思いがしたが、受付に向かった。


「あの・・」


私は受付の女性に声をかけた。


「はい、いらっしゃいませ」


女性は輝くような笑顔を見せた。


「えっと・・ここに、飯田陸斗という社員さんがいらっしゃると思うのですが・・」

「飯田陸斗・・でございますか。恐れ入りますが何課でございますか」

「それはわからないのですが・・」

「少々お待ちください」


女性は内線電話で問い合わせていた。


「飯田は当社の社員でございますが、ご用件をお伺いします」

「あ、えっと、用件というか、二之宮が来たとお知らせ願いますか」

「二之宮さまでございますね。もう少々お待ちください」


女性は再び内線電話で問い合わせてくれた。


「二之宮さま、ただいま飯田が参りますので、あちらのソファーにかけてお待ちください」

「どうもありがとうございます」


そして私はソファに座って待っていた。

それにしても、飯田さんはここの御曹司のはず。

でも受付の人は、知らない風だった。

なぜなんだろう・・


「沙月」


飯田は驚いた風に現れた。


「あ・・」


私は立って一礼した。


「突然、すみません」

「いやあ、驚いたよ。どうしたの?」

「ケガの具合はどうですか」

「え・・まさか心配して来てくれたの?」

「あ・・はい」

「この通り、すっかり腫れは引いたよ」


飯田の頬は赤くなっていたが、確かに腫れは引いていた。


「そうですか、よかったです」

「電話してくれたらよかったのに」

「いえ、電話だと、またどこかで待ち合わせってことになるし、それだと飯田さんのお仕事の邪魔をしてしまいますから」

「そっか。ありがとう」


そして私たちは向かい合って座った。


「あ・・私、お見舞いとか何も持ってこなくて、すみません」

「あはは、大袈裟だね」

「飯田さんって何課に所属してらっしゃるのですか」

「総務課だよ」

「そうですか・・」

「なんで?」

「いえ・・あの、受付の方が飯田さんのこと知らないみたいだったので・・」

「ああ、僕ね、ここの息子だってこと、内緒にしてるんだよ」

「そうなんですか・・」

「知られると、お互い仕事がやり辛いし」

「そうですね・・」

「知ってるのは直属の上司と坂槙と、あと数人」


この話・・本当なのかな・・

もし・・もしよ?

社長の息子が嘘だとしたら・・

怪しい人物というのは、もはや決定的だわ。


「二之宮さん、どうしたの」

「あ・・いえ、なんでもありません」


「失礼します」


そこに、受付の女性がお茶を運んで来てくれた。


「あ、すみませんね」


飯田が礼を言った。

女性は「どうぞ」と微笑んで受付に戻った。


「沙月、飲んでね」

「あ、はい・・いただきます」


私は湯飲み茶碗の蓋を取り、一口すすった。


「でも沙月が僕を心配して来てくれるなんて、嬉しいよ」

「いえ・・そんな」

「で、また会えたし」

「・・・」

「でも、これで最後だね」

「あの・・」

「なに?」

「私、お付き合いを断るのに、電話で済ませて申し訳なかったと反省してます」

「そんなの気にしてないよ」

「お会いしてちゃんとお詫びをしなきゃって思って・・」

「そうなんだ・・」

「すみませんでした」

「ううん。来てくれてありがとう」

「じゃ・・私はこれで失礼します」

「そっか。淋しくなるね」

「・・・」

「あ、ごめん。僕はまた余計なことを」

「いいえ・・ではお元気で」

「うん、沙月もね」


そして私たちは立って握手をして別れた。

私はロビーを出る前に、飯田がエスカレータに向かって歩くのを見ていた。


飯田さん・・ここの社員っていうのは本当なのよ。

でも、息子・・次期社長っていうのは、嘘なんじゃないの。

そりゃ身分を隠さないと、色々不都合なこともあるだろうけど・・

八年もいて、バレないってあり得るのかな・・


「社長、今日の予定はここまでです」


私の横を恰幅のいい男性と、黒い鞄を抱えた男性が通り過ぎた。


社長・・あの人が社長なんだわ!


「そうか。で、陸斗は」

「まだ勤務中かと」

「あいつに今夜のこと伝えてるのか」

「はい、伝えております」


陸斗って言ったよね・・

っていうことは・・やっぱり息子なんだ・・


「先方を待たせるわけにはいかん。もう一度念を押しておけ」

「はい、かしこまりました」


そして黒塗りの高級車に社長と男性が乗り込んで、走り去って行った。


やっぱり嘘じゃなかった。

私は飯田を疑ったことで、自分を恥じていた。

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