第九話:ヒロセ、スラちゃんと朝食を食べる
「ヒロセ、この仕事まだ終わってないぞ」
「ヒロセ、24時まで残業行けるか? もちろん、タイムカードは切っておけよ」
「ヒロセ、休日なんてあると思うなよ。休日でも常に会社からの電話に備えておくんだ」
「ヒロセ、お前ここミスっただろう? 残業決定な」
「ヒロセ…………」
「ヒロセ……」
「ヒロセ……」
「ヒロセ…」
……
…
「うわっ」
「スラー、スラ、スラー」
なんだ、スラちゃんか。
俺が夢から覚めると、スラちゃんが顔の上に乗っかってふにふにしていた。
ああ、犬になめられるってこういう感じなのかな。俺は犬を飼ったことがないので、スラちゃんが顔の上でふにふにしていると、そんな感じなのかなと想像してしまう。
よいしょっと。
「スラー」
俺は顔の上に載っているスラちゃんを片手でひょいと持ち上げて、床にそっと置いた。あいかわらずスラちゃんはいい感触だ。
とても嫌な夢をみたけど、スラちゃんがスラスラ言っているだけで癒される。
このスラちゃんの癒し効果だけでも、このボロアパートを購入した甲斐があるのか?
「ふあー、眠たい」
ボロアパート備え付けのベッドから起き上がって俺はあくびをした。
今俺は購入したボロアパートの101号室にいる。止まり木亭から引っ越したのだ。
看板少女ミーアちゃんのモーニングヴォイスを聞けなくなるのは残念だけど、ボロアパートにはスラちゃんとちみっこ妖精しかいないから、大家として住み込むことにした。
ちみっこ妖精は102号室だ。スラちゃんはもともと前の大家と101号室に住んでいたらしい。
だから、スラちゃんは俺が101号室に住んで面倒みることになった。
で、引っ越してきて驚いたのは、見た目ほどこのボロアパートはボロくなかったことだ。
外観のロボさを見たときは、雨漏りしてたり、風が吹き込んできたりしてそうだったけど、その心配はなかった。
部屋は殺風景ながらきれいだったし、備え付けのベッドもついていた。まあ、それだけだから他は購入する必要があるけど、あとでちみっこ妖精に案内でもしてもらおうか。
だから、しばらくはこのままのボロさでいくことにしよう。気が向いたら、リペアする方向で。
「スラー、スラー」
俺がぼけーっと考えてたら、スラちゃんが足元にふにふにぷにぷにと近寄ってきて、ぷにぷにすりすりと頬ずり?をしてきた。
「よし、スラちゃん、朝食にするか?」
「スラ~~~♪」
◇
こうして俺はボロアパートに引っ越してきた。
微妙になんか投資になってない気がするが、まあ何とかなるだろう。
さて、俺は適当にパンでもかじるとして、スラちゃんは……。
あれ? スラちゃんって何食べるんだっけ?
ブクマ、よろしくお願いします。