その背中を傷つけんとするものは、何人たりとも許さない
エルミリーは誰かを待ってるって聞いたが、恋人だろうか。
もしそうだとしたら、こうして手を引いて外に出ちまったのはまずかったか?
そもそもどうして俺は彼女を連れ出したのか……。
うーむ、自分で自分のことが分からん。
「ちょ、ちょっと! いい加減、その手を離してちょうだい!」
「あ、ああ、すまん」
「まったく、強引なんだから」
「そういえば誰かを待ってたんだろ? そっちは大丈夫なのか?」
「今さらそれを聞く? そ、それにもう大丈夫だから」
「大丈夫? どういうことだ?」
「もうっ! バカ! 知らないっ!」
かなり怒ってるな。
やっぱり恋人を待っていたのか。
恥ずかしいのを隠すために『大丈夫』って強がっているんだろう。
なかなか可愛いところもあるもんだ。
だが、とにかくこうなったら仕方ない。もう今夜は町に戻れないんだから。
王都まで付き合ってもらおう。
夜は魔物も凶暴になるっていうしな。
一人よりも二人の方が心強いってもんだ。
(ハァハァ……。久々のマルコの背中! やっぱり最高だわぁ! バラン山脈を彷彿とさせる絶妙な隆起。ドグロ岩石を思わせる固そうな筋肉。まさに肉体の大自然じゃぁぁぁ!)
「ん? ところでなんでエルミリーは俺の後ろをついてくるんだ? おまえさんの方がはるかに剣の腕前がいいんだから、できれば前に立って魔物の襲撃にそなえて欲しいんだが……」
「ハァハァ……。ほえっ? え、あ、背中!!」
「せなかぁ? どういうことだ?」
「わ、私はマルコの背中を守ってあげてるの!!」
「はあ……。そうだったのか。ありがとな」
――グルルルルゥゥ……。
「あれはキラーボア!! しかも2体も現れた! くっ! 見つかってしまったからには戦うしかねえか!」
――ドドドドドッ!
「突っ込んできやがったな! 待っているのはガラにあわねえんだ! こっちも行かせてもらうぜ!」
――ガッ! ドカッ! バキッ!
「ぐっ! 肉野菜炒めにしたら旨いくせに、なかなかやるな!」
――グルルッ!
「しまった! 1体に気を取られているすきに、もう1体に背中へ回り込まれちまった!!」
こうなりゃ背中に一撃くらうのは覚悟のうえで、目の前の1体を先に片付けるしかない。
「さあ、きやがれ! 俺の背中をなめんなよ!!」
「……なめるわ。いつか絶対に……」
「は?」
「その前に、その背中を傷つけんとするものは、何人たりとも許さない」
「え、エルミリー?」
「くらえ! 雷神の一閃!!」
――スパッ!!
――ドサッ……。
「おいおい……。一撃かよ……」
――クウゥゥン……。
――ダダダッ!
「あ、逃げた!」
「ふん、つまらぬイノシシめ。今度『私の』背中を襲おうものなら、肉野菜炒めにしてあげるんだから!」
「あ、ありがとな。助かったぜ」
「べ、べ、別に気にすることなんてないんだから! 私は『背中を守る』って約束を果たしただけだもん!」
「そうか。でも、なにかお礼をさせてくれ。じゃないと気が済まんからな」
(キタアァァァァ!! お、お礼がキタアアアアア!! よ、よし今度こそ言ってやるんだから! 覚悟しなさい!! お友達になって欲しい! 背中を眺めさせて欲しい! あとスリスリしたりペロペロさせて欲しい! それから、それから、その後はお友達以上のカンケイに……。きゃーーーー! 爆発するぅぅぅ!!)
「お、どうやら王都についたようだな」
「ほえ?」
「んじゃ、俺は寄るところがあるから、また今度会った時にお礼をさせてくれよな」
――タタタタタッ。
「ああ……」
(行っちゃった……)
「そこのお姉さま! うちの定食屋で食べていかない? ここのシェフ、アリエッタがふるまうキラーボアの肉野菜炒めは絶品なんだから!」
「うるさいっ! 食べていくわよ!! 肉マシマシ、ご飯特盛りでね!!」