時間もないし……こうするしかないだろ
◇◇
翌日――。
以下、エルミリーの妄想。
『はぁはぁ、間に合った……!』
『え? マルコ!? どうしてあなたがここに!?』
『ばかやろう。黙ったまま行くつもりだったのかよ』
『うん……。お店まで押しかけたら迷惑だと思ったから……』
『迷惑だとぉ!? ふざけるな! 俺の気持ちも知らないで!』
『え? マルコの気持ち……?』
『……見たいんだろ。俺の背中』
『え、うん……』
『俺は見せたいんだよ! 俺の背中をおまえに! ……言わせるな』
『うそ……』
『うそじゃないって証明してやる』
『どうやって?』
『ついてこいよ。俺が王都まで送ってやるから。その間、おまえはずっと俺の背中を見られるだろ』
『え……。それって……』
『俺も王都に行く。王都に行って、おまえとずっと一緒に……』
妄想終わり。
(にゃふふふ! 絶対にこんな展開が待っているはずだわ! ヒロインがハッピーエンドになるのが王道だものね! 食堂ではおかみさんたちの目があったからそっけなかっただけ。さあ、マルコ! いつでもきなさい! 私は町のはずれで待ってるから!)
………
……
――カァー。カァー。
「あ、エルミリーおねえちゃん、まだいるー!」
「しっ! ヒロちゃん、見ちゃダメよ」
「どうして朝から夕方まで、ずっとここにいるのぉ?」
「きっとふかーい、大人の事情があるのよ。ヒロちゃんはそんなこと気にしなくていいの!」
(ムッキー!! いつまで待たせれば気が済むのよ!!)
『ごめんね、待った?』
『ううん、ぜんぜん待ってないわ』
『そうか、それはよかった。ニコッ』
(みたいな古臭いくだりをしたくて、レディを待たせてるんじゃないでしょうね!?)
「あ、あのー……。エルミリーさん」
「むっ? 門番のトミーさん。なんでしょう? 私こう見えても忙しいので、用件を簡潔に言ってくださる?」
「いえ、そのー。そろそろ門を閉める時間なんですけど……」
「だからなに?」
「だから、ええっと。いつになったら出立されるのかなーと」
「……っ!! ひ、ひ、人を待ってるの! だからもうちょっと待ってて!」
「そ、そうでしたか。ならもう少しだけ待ちましょう」
(マルコ! なにやってるのよ! もう時間がないのよ!)
――タタタタッ!
「おーい!!」
「ま、マルコ!!?」
「はぁはぁ、間に合った……!」
(うそ!? まさかこの展開は……!? 落ち着け! 落ち着くのよ、私!)
「べ、べ、別に待ってないんだから!」
「トミー、これからちょっと王都まで行ってくるわ」
「へっ?」
「ああ、マルコさん。例の買い出しかい? たしか武器の素材になるマテリアルでしたっけ?」
「そうなんだよ。明日市場に売りだされるのをすっかり忘れてたのさ。今夜は王都に泊まって、定食屋によってから帰るわ。明日の夕方までに戻れると思うぜ」
「分かりました。お気をつけて」
「おう! トミーもおつとめご苦労さん。新妻の手料理もいいが、たまには食堂にも顔出してやれよ。おかみさん喜ぶから」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと! 待ちなさいよ!!」
「ん? エルミリーか? おまえさん、まだこんなところにいたのか?」
「マルコさん。どうやら彼女は朝からずっと誰かを待っておられるようでしてね」
「ほう。誰をだい?」
「……っ!!」
(い、い、言えるわけないでしょぉぉぉ!! マルコを待ってたなんて!!)
「でも今日、町を立たないといけないんだろ?」
「そ、それはそうだけど……」
――ガシッ……。
「ほえ?」
「だったら、ここに突っ立ってたら門を閉められるぞ」
「手……つないでる……」
「時間もないし……こうするしかないだろ。いいから、いくぞ!」
「ひゃ、ひゃい!」
(ふええええええ!? い、い、い、いきなり超展開なんですけどぉぉぉ!! ど、ど、どうなっちゃうのぉぉぉ!?)