表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/31

どこからどう見れば、この状況を『奇遇』と言えるのか

◇◇


 翌日――。


 そう言えば、今日きた客から聞いたんだが、エルミリーがこの町を出立するのは明日らしいな。

 全然知らなかったぜ。

 あんだけ毎日、こっちをじーっと見てるんだったら言ってくれればよかったのに。

 と言っても、俺とあいつでは接点がなさすぎるから、「明日町をでるわ」と言われても、「あ、そうですか」としか返せないか……。

 しかし、けっきょくは今日も店にはやってこなかったなぁ。


 ……って、なんで俺はあいつのことが気になっているのだ?

 でもまあ、気持ちよく送りだしてやりたいな。


――カラン、カラン。


「いらっしゃい!」

「ああ、おかみさん。いつものね」

「ふふ、それならもう用意できてるわぁ」

「またか……」

「しかもすでにお代もいただいてるの。ささ、あそこに用意してあるから。早く行ってあげてちょうだい」

「あそこ? ……って、おいおい! なんでエルミリーの隣に肉野菜炒めが置いてあるんだよ!? それにニコニコしながら手招きしてるじゃねえか!」

「まあ、いいから、いいから」


(ふふふ。まさに背水の陣よ! 隣に美女が座ってるのに、話しかけない男なんていないはずだわ! さすが私! ナイス機転! でもマルコは『シャイ』で『プライドが高い』のは分かってるから、私から話しかけてあげるわ。がんばれ! 私!)


――ドスン。


「あ、あ、あら? マルコじゃない? 奇遇ね!」

「はぁ、奇遇だとぉ? おまえさん、どこからどう見れば、この状況を『奇遇』と言えるのさ」

「細かいことはいいじゃない!」

「……ったく、訳分からん。……とりあえず、ありがとさん。じゃあ、遠慮なくいただくぜ」

「ど、ど、どうぞ!」

「……」

「……」


(まずいわ! 会話が続かない! それになんていうスピードで食べてるのよ!! もっと味わいなさいよね! 作ってくれているおかみさんに悪いと思わないの!? これだから最近のおっさんは困るわ。人生をもっと豊かにすごすには、なんでもゆっくりと噛みしめながら進まなきゃ。確かに、私は彗星のごとく現れて、エリート街道を一段飛ばしで駆けのぼっているのは否めない。だからこんなことを言う資格なんてないのは分かってるつもり。でもね。そんな私でも恋は奥手なのよ。じっくりと味わうことで、二人の愛は豊かになるって信じてるの。……ふっ、がらにもないことを言っちゃったかしら)


「ごちそうさん」

「ほえ?」


(しまったぁぁぁぁ!! 私の隙をついて、食べ終わっちゃうなんて!! うかつだったわ! どうしよう!? もう席をたとうとしてるじゃない! 考えろ! 考えるんだ! 私! ……あー! なにも浮かばなーい!)


「そういえば、明日町をたつんだってな?」

「へ? あ、うん」

「あ、その……。達者でな」


(ふえええっ!? なにこの展開!? まさか向こうから切り出してくれるなんて! ああ、胸がドキドキしてきた。もしかして、このまま『友達になってくれないか?』って言うつもり!? それとも、す、す、す、す、好きです、って告白するつもり!? ちょっと待って! 心の準備が!!)


「じゃあな。今日はありがとさん」


(ちょっと! ここまできて思わせぶりで終わりかいっ! まずい! まずいわ! このままだと、これでお別れになっちゃう! いやよ! そんなのダメ!! どうにかしなきゃ! とにかく声を出すのよ!!)


「いえ、あ、あの!!」

「そうだ。こいつを渡すのを忘れてた」

「ほえ? これってナイフ?」


(ほわぁ。すごく素敵……。丁寧に心を込めて作ってあるのが、すぐに分かるわ)


「あんまり気の利いた言葉とか苦手でな。餞別だ。持っていきな」

「あ、ありがとうございます」

「礼なんていらねえよ」


――カラン、カラン


「ああ……」


(行っちゃった……)


「あらぁ、綺麗なナイフだこと! 彼ああ見えて、仕事の腕前だけは良いのよねぇ!」

「マルコの良いところは、仕事だけじゃないもん!」

「はい?」

「いただきますっ! おいひい! おいひいよぉ。ふえぇぇん……」

「まあエルミリーちゃんったら、よほど肉野菜炒めのことが好きなのね。またいつでも食べにきてね。お別れなんて寂しいわ。ぐすっ」


(違うもん! 私が好きなのは……)


「おかみさん! おかわりっ!!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ