はぜろ! きんにく!!
翌日――。
「ややっ! そこにいるベレー帽をかぶって、ぼけーっと外を眺めている幼女はもしやメルルかね?」
「ふえ? おねえちゃんはだぁれ?」
「ははは! 私を知らないとは、まだまだメルルちゃんはお勉強が足りないみたいね! いいわ、教えてあげる。私の名はエルミリー! この町の……いや、この国の英雄として知られた騎士よ!」
「ふえええ。すごいお人なんですねぇ」
「ははは! でもメルルちゃんの噂も聞いてるわよ。なんでも9歳にして宮廷画家に推薦された天才芸術家なんでしょ!」
「ふえええ。恥ずかしいですぅ」
(そうよ。『ふえええ』とか言ってるわりには、まるで飛び出してくるような迫力満点な絵画を描くって、おかみさんが言ってたもん。彼女なら描けるはず!
最高の筋肉を!!
そう、私は決めたの!
マルコの背中をメルルちゃんに描いてもらって、その絵を遠征に持っていく。そうすればいつもマルコがそばにいてくれるのと同じってことだわ! さすが私! ナイス機転!!)
「実はメルルちゃんに描いて欲しい人がいるのよ」
「ふえええ。どうしてぇ?」
「どうしてって……。私はずっとその人のそばにいたいの。3ヶ月間の遠征のあいだ、会えなくなっちゃうから。だからせめて絵を見てその人のことを感じていたいのよ。……ってなにを言わせんの! そ、そうだ! もし描いてくれるなら、このグルグルキャンディーをあげる!」
「わーーい! グルグルキャンディーだぁいすきぃ! うん! いいよ! メルル、お絵かきするぅ!」
(くくく。さすが幼女。ちょろいわね。よし! これで我が策なれり!! ふははははは!!)
………
……
武器屋にて。
「マルコォ!」
「はぁい。どなたかしら?」
(むむっ! この声は!?)
「あら、エルミリーじゃないの? もうマルちゃんのことはあきらめてくれたと思ってたんだけど」
「あきらめるという言葉は私の辞書にはありませんので。ではさっそく入らせてもらいます」
「ふふふ。あいかわらず強引なんだから」
――ツカツカツカ。
「おや? エルミリーかい?」
「お、お、おはよう。マルコ!」
「ん? もう夕方近いから『おはよう』ってのはちょっと違う気もするが……。まあ、いいや。どうした?」
「べ、べ、別にヤボ用よ! 悪い!?」
「いや、悪かあねえが、なんでそんなぶっきらぼうなんだよ……。この前も俺のこと避けてたし」
「……っ!? 違う! それは……」
「ふえええ。あついですぅ」
「おや? その小さい女の子は誰だい?」
「ふふ。もしかしてエルミリーの子どもかしら? ようやく彼氏いない歴=年齢の壁をやぶって誰かと結婚したってことね。お姉さん、嬉しいわぁ」
「だから違います!! それにイロハさんだって彼氏いない歴=年齢でしょ!!」
「ああっ?」
「なんですか?」
「と、とりあえず落ち着けって! この子はいったい誰なんだよ?」
「メルルはメルルだよぉ!」
「メルル……って、あのメルルか!? 宮廷画家の!」
(ふふふ。やっぱりメルルちゃんは有名人だったのね。私はまったく知らなかったけど……)
「メルル、おじさんを描くのぉ!」
「俺を!?」
「うん! お姉ちゃんに頼まれたんだよぉ! このキャンディをあげるかわりにおじさんを描いてって!」
「うわぁ……。引くわぁ。幼女をアメで買収とか、普通に引くわぁ」
「う、う、うるさいわね!! 勝手に男の家に押しかけて女房づらしている女に言われたくないわよ!」
「ああっ?」
「なんですかぁ?」
「だから、やめろ!! ……ったく。もういいよ。分かった。んで、俺を描くって?」
「うん!」
「ああ、わりぃが俺にはモデルとか無理だわ」
「そうよ! しかもメルルと言えば、『からみ』を描く専門の画家でしょ?」
「からみ?」
「あら? 知らなかったのかしら?」
「からみって何?」
「からみと言えば……ねぇ」
「はだかとはだかのぶつかり合いのことだよぉ! お姉ちゃん。マルコおじさんの『相手』は誰なのぉ?」
「ぶふぉっ!!! な、な、な、なんですってぇぇぇぇ!?」
(おかみさん、そんなこと言ってなかったもん! 裸同士で絡み合っているシーンを専門に描くって、そんなバカな話ある? そもそも宮中の人は何を考えてるのかしら? そ、そ、そういう卑猥な絵を飾っておくなんて、ありえない! いや、それもまた一つの芸術なのかもしれないわね。奥が深いわ……。深すぎる。
と、とりあえず大ピンチね。このままじゃ、マルコの絵を遠征に持っていくことができないわ……。
……。
……。
……ん?
まてよ。
これってもしかしてピンチじゃなくて、チャンスなんじゃ……。
以下、妄想。
『……俺の相手が誰もいないんじゃ、仕方ねえ。あきらめるしかないな』
『マルコ……。あのね……』
『ん? エルミリーどうした?』
『え、あ、うん……。ええっとね。もし私が相手だとしたら、マルコはイヤ?』
『え? もしかしてエルミリーが俺の相手をしてくれるっていうのか?』
『もう! みんなの前で恥ずかしいわよ!』
『あ、いや、すまん。……嬉しくて、つい』
『え? 嬉しいって……!?』
『……言わせるなよ。俺はエルミリーと肌と肌で暖めあうのが夢だったんだ』
『うそ……。それってつまり……』
『俺と一緒に裸になってくれないか? そして二人の愛を絵に残したいんだ』
『マルコ!』
『エルミリー!!』
(むっきゃあああああ!! 最高! 最高すぎるわ! べ、べ、別に本当はモデルなんてやりたくないのよ! でもマルコが困ってるから助けてあげるだけだもん!)
「仕方ないわね。じゃあ、私がマルちゃんの相手をしてあげるわ」
――ぬぎっ。
「ちょっと待て! イロハ!!」
「そ、そ、そ、そうよ! なんでイロハさんが先に脱いでるんですか!?」
「先に? あら? エルミリーも脱ぐつもりだったの?」
「なっ!? ち、ち、ち、違いますぅ! そんなことありえません! わ、わ、私は国の英雄なんですから!」
「ならここには私しかいないじゃない。ふふ。いいのよ。もうあと数日後にはこうなる仲だったんだから」
「おいっ! メルルもいる前でなんてこといいやがる! そういうことを外で言いふらすから、みんな勘違いするんだろ!?」
「ふふ。勘違いなんかじゃないわ。体はまだつながってないけど、愛はつながってるんだもの。じゃあ、私が脱ぐわね」
――ぬぎぬぎっ。
「だああああ! やめろ!」
「きゃあああ! やめてぇぇぇ!!」
「ふふ。さあ、マルちゃんも脱ぐのよ!」
「ふええええ。おねえさんが脱いでも、メルルは描けないよぉ」
「……………は?」
――ズカズカズカ。
「やあ、マルコ! 今日もいい汗かいてるかい? 今日は暑いからね、脱いできちゃったよ」
「うおおおおおおおお!! きたああああああああ!!」
「ほえ?」
「おいっ! おっさん!! 早く脱げ!!」
「メルルちゃん!?」
「今、集中してるんだ! 気軽に名前を呼ぶんじゃねえ!!」
「ひいっ!」
「いいからマルコ!! 早く脱げ!」
「お、おう……。いったい何がどうなってるんだ?」
――ぬぎぬぎっ。
「きたああああああ!! 男の筋肉と筋肉のぶつかり合いこそ芸術じゃぁぁぁぁ!! はぜろ!! きんにく!!」
(…………メルルちゃん……ド変態だったのね……)




