なぜか二人の美女が俺をじーっと見てくるのだが……
俺は今、朝食をとっている。
しかし……。
(じーっ……)
(じーっ……)
なぜか目の前でイロハとエルミリーが俺を凝視してくるのだ。
しかも二人とも互いに目も合わそうとせず、さながら剣士同士の斬り合いが始まりそうな緊張感に包まれている。
「ねえ、マルちゃん。おいしい?」
おいおい、イロハ……。
その抑揚のない声で問いかけるのはやめてくれ。
しかも突き刺すような二人の視線のおかげで、味なんて何もしないのだが……。
しかしここでそんなことを口にしようものなら、俺は殺される。確実に。
「ああ、とてもおいしいよ」
――キラン!
――キラン!
「へっ?」
「スープがおいしのよね!?」
「パンよね! 美味しいのは!」
「スープに決まってるわ。だって『愛』というスパイスが加わっているんだもの」
「あら? それを言ったらパンは『温もり』という包みにくるんで持ってきたのよ」
「スープよ!」
「パンよ!」
「ええっと……。全部ってことでいいか?」
――キラン!
――キラン!
「なによ! その投げやりな感じは!!」
「そうよ! そういうどっちつかずの態度だから、いつまでたっても『しながい武器屋のおっさん』なのよ! 私、エルミリーみたいにズバッと一刀両断する気概を持ってよ!」
「その通りよ! そんなことで私、イロハの夫がつとまると思ってるの!?」
「おいおい、いったいなんだってんだ? そもそもなんでおまえさんたちがここにいるんだよ!?」
「ふふ、もともとここはおじいちゃんの家。つまり私の家でもあるのよ。鍵くらい持ってるに決まってるでしょ。それに引き換え、ここにいらっしゃる町の英雄さんでしたっけ? あろうことかドアを蹴破って侵入してくるなんて……。とても同じレディとは思えないわ」
「あら? それを言うなら男の一人暮らしを何年も覗き見して、挙句のはてには鍵を使って勝手に忍びこんでるイロハさんの方が『異常』だと思うけど」
「ああ!?」
「なんですかぁ!?」
「だからやめろって! もういい! ごちそうさま!」
まったくなんだってんだ?
百歩譲ってイロハがここにいるのは分かる。あいつの言う通り、もともとここはイロハの家でもあるしな。
しかしエルミリーがなんで朝っぱらからここにくるんだ?
でも……。
どうしてだろう?
パンを持ってきてくれたって聞いて、ちょっとだけ嬉しかった自分もいるのは……。
――ドタドタドタ!!
「ん? また誰かきたのか?」
「え、エルミリー殿!! エルミリー殿はおられるか!?」
「その声は第一騎士団の伝令役、カイクさん!」
「おお! やはりここでしたか! 定食屋のおかみさんに聞いてよかった」
「んで、どうしたのですか? かなり慌ててた様子でしたけど」
「ややっ! そうでした! 緊急事態でございます!」
「緊急事態!?」
「はい! 実はキラーボアの大群が近くに出現したそうなのです! この町に向かって突進しているとのこと!」
「え!?」
「王国軍の全騎士団に出撃命令がくだっております!」
「くっ! こうしちゃいられないわ! 行かなくちゃ!!」
――ダダダッ!
「マルコ殿! 失礼いたした! 拙者も急ぐゆえ、これにてさらば!」
――ダダダッ!
「おいおい……。なんだか嵐のようにやってきて、嵐のように去っていったな……。ん? どうしたイロハ?」
イロハの顔色があきらかに青いぞ。
「……キラーボアの大群……。騎士団に所属していたママと、ママに武器を届けにいったパパを殺したのもキラーボアの大群だったわ……」
「……なに……!?」
「ねえ、マルちゃん。昨日エルミリーさんに作ってあげた武器の素材はなに?」
「ああ、確か『鋼鉄』だ」
「……それじゃあ、無理よ」
「おいおい……どういうことだ?」
「キラーボアの大群を率いているのはクリスタル・ボアキング! 鋼鉄の武器では通用しないの!! あの時はママが相討ちまでもっていったから町が襲われずにすんだけど、このままじゃエルミリーさんは殺されるし、町も襲われてしまうわ!!」
「まじか……」
しかし『鋼鉄』ですらこの町では手に入らずに、ルベルガー将軍に持ちこんでもらったんだ。
いったいどうしたらいいんだ……。
「奥の倉庫にパパが遺してくれた『ミスリル』って素材があるわ。それを使いましょう」
「イロハ……しかしそれは親父さんの形見なのでは……」
「ぼーっとしてる時間はないわ!! エルミリーさんを死なせていいの!? 彼女のこと『好き』なんでしょ!?」
エルミリーのことが好き……。
そうなのか? 俺はあいつのことが好きなのか?
「え、いや、俺は……」
――ガシッ!
「男ならバシッと一刀両断しなさい! やるの? やらないの? どっち?」
女に胸ぐらつかまれて、そこまで言われたらよぉ。
こう答えるしかねえじゃねえか……。
「やってやるよ。俺の武器でエルミリーを助けるんだ」




