背中はやめて! 顔や腹ならいくら殴ってもいいから!
「はふ、ほふ、うん! うめえええ!! やっぱりおかみさんの肉野菜炒めは最高だぜ!」
「うふふ、そう言ってもらえると嬉しいわぁ」
「ところでアリエッタは大丈夫かい?」
「そうねぇ。奥の方で『かくなるうえはこれまで研究に研究を重ねてきた惚れ薬を肉野菜炒めに混ぜるしかないわね……ククク。こんなことでウチがあきらめるなんて思わないことね……』とか言ってたけど、たぶん大丈夫よぉ」
「おう……。なんだかあんまり大丈夫そうじゃねえと思うんだが、実の母親がそう言うなら間違いねえな。いや、すまねえ、あとは頼むわ。じゃあ、肉マシだから15ゴルだよな? ここに置いてくわ」
「まいどあり!」
――ジャラ。
「ちょっと待ったああああ!!」
(うわぁ、あの美人さんキレちゃったよ。それもそうよね。マルコが肉野菜炒め食べている間、じーっと見つめてたのに、マルコったら何も話しかけないんだもん。でももどかしくてモジモジしてるくらいなら、バシッと話しかければよかったのに。私なら『マルコ! ちょっと話があるんだけど!』って、正面きって言ったはずよ。やっぱり男も女も度胸が必要よねー)
「おいおい。いったいなんなんだよ……。言っておくが俺はおまえさんみたいな美人さんの知り合いなんていねえんだ」
(なぬっ!? び、び、美人ですってぇ!? 完全無欠である私には一言もそんなこと言ってくれたことないのにぃ! ムキィィィ! どういうことよ! あとでちゃんと説明してもらうんだから!)
「え? 美人? ふふふ、ずいぶんと言うようになったじゃない。昔のマルちゃんはお世辞の一つも言えない堅物だったのにね」
(むむっ!? まんざらでもない……だと……。もしやあの美女は……)
「……よく分からねえが、なんでおまえさんが俺の昔を知ってるんだよ。てきとう言うな」
「てきとうですって!? ふざけないで! 私はおじいちゃんにだってウソついたことないんだから!」
「いや、その比喩がよく分からん。そもそもおまえさんのおじいちゃんを知らないしな」
――ブチッ!
(ん? 今、なにかがキレた音がしたんだけど……)
――ガタッ!! ツカツカツカ!
「おい、なんだよ……。近いって」
――バッチィィィン!!
「ぐはっ!!」
――ドォォォン!!
(ひっ! ビンタした!! しかもマルコが壁まで吹っ飛んで、口から血を流してるし!
……で、でもどうやら背中は無事のようね。安心したわ。
背中はやめて! 顔や腹ならいくら殴ってもいいから! 背中だけは乱暴しちゃイヤ!
……しかし、美人だけじゃなくて、とんでもないパワータイプとは。ますますあなどれないわ)
「いってえな! いきなりなにしやがる!!」
「みそこなったわ、マルちゃん。自分の師匠のことを『知らない』って言うなんて……」
「俺の師匠だと……? ……………まさか。おまえさんは……」
おいおい、待ってくれ。
俺の予想が正しいなら、この美女は……。
「そうよ! あなたの許嫁よ!! あなたのフィアンセ!! イロハよ!!」
(ぐはあああっ!! ふぃ、ふぃ、ふぃ、フィアンセですってぇぇぇ!!)




