表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/31

なんか視線を感じると思ったら、超有名人の英雄(美女)が俺(おっさん)を見てモジモジしている


 今、俺はギルドに併設された食堂にいる。

 キラーボアという猪の魔物の肉を使った肉野菜炒めを食べるのが、毎晩の日課だからだ。

 

 しかし……。

 

(じーっ……)


 目の前に座った女戦士が俺を凝視してくるのだ。

 顔見知りかって?

 いや、知っているのは一方的に俺だけだろう。

 なぜなら彼女はギルドでも超有名人。

 名前はエルミリー。

 傷一つ負わずに完膚無きまで魔物を叩きのめす姿から『完全無欠』とか『鉄の女』とか『冷徹の女神』とか様々なあだ名がつけられた。ただ彼女が完璧なのは戦歴だけではない。

 ブロンドの長い髪に、透き通るような白い肌。そしてばっちりした大きな瞳と見た目も完璧なら、弱冠24歳にして、冒険者ランク『SSS』という経歴も完璧なのである。


 近々町を出て、王都に引っ越すらしい。なんでも王国軍の将官に抜擢されるそうだ。

 つまりこの町の英雄であり、彼女のことを知らないといえば、もぐりだ。

 

 一方の俺は、マルコという名前のしがない武器屋。

 いわば一般人さ。

 今年で35になるが、師匠と呼べるドワーフのじいちゃんが亡くなってからは、彼の『シルヴォックの槌』を受け継いでコツコツと武器を作り続けている。

 ……と、言っても鉄や銅、時には木を素材とした武器しか作ったことはない。

 この町には一つしか武器屋がないから、それでもどうにか暮らせるくらいは稼げているんだ。

 

 さて、俺が肉野菜炒めをかきこんでいる間、彼女は視線を俺の頭に向けてくる。

 ちらりと彼女に目をやると、慌てて視線をそらす。

 そんなことを何度も繰り返していた。

 たまにフェイントをかけて目を合わせれば、

 

(あっ……)


 顔を真っ赤にしてモジモジしている。

 明らかに何かを話したそうだ。

 

 なぜだ……。

 

 彼女の武器は王都から特注で届く。

 俺が彼女に武器を売ったのは、彼女が駆け出しの頃だけだ。

 つまりここ数年はまったく接点がない。

 会話を交わしたことすらない。

 もとい。数年前に一度だけある。

 

――これいくら?

――50ゴルだよ。

――じゃあ、いただくわ。100ゴルでいい?

――まいどあり。お釣りを取ってくるから、ここで待っていてくれ。


 この四行だけなのだ……。

 

 俺は気のせいと思いこみ、再び肉野菜炒めをかきこみはじめた。

 しかし、

 

(じーっ……)


 やっぱり俺を見ている。

 なぜだ?

 気になってしょうがない。

 

 そこで思いきって話しかけることにしてみた。

 

「あ、あのー。俺になんか用か?」

「ふえっ!? あ、いや、そのー……。なんでもありませんっ!」

「もしかして……。肉野菜炒めを食べたいのか?」

「違います!! 付き合って欲しいだけです!!」


 今回の会話もたった四行であったが、以前と比べれば、かなり濃いものであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ