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1、世界を滅ぼす最強存在、愛を求めて転生をする

 無駄に世界を滅ぼしかけた。


 所要時間は八日ほど。

 途中休憩を挟んだから実働時間は七日と少し。



「……ダメだ。こんな下位世界の滅亡に七日もかけてるようでは、上位世界には及ばない」



 おまけに、滅亡までの追い込み方が不細工だ。


 人口おおよそ一億人ぽっちのこの世界。

 ひし形の大陸一つだけしかないこの世界を、東端から滅亡範囲を広げつつ西進しただけ。


 ……力押しもいいところだ。

 もっと効率よく、もっとクレバーに滅亡させることもできたはずなのに、昔の癖で力に頼ってしまった。


 すべてが平らになり、あらゆる生命が――鳥も、虫も、もちろん『人類』も死に絶えた世界を見渡す。

 真っ平らな大陸が一つあるだけのこの世界は、山も街もなくしてしまえば、今俺がいる西端から東端までさえ見通せそうな小ささだった。


 こんな世界でさえ滅亡に七日、しかも休憩を挟まなければならないほど疲弊した。

 やはり、力がまったく戻っていない。


 学ばなければいけない。


 力の使い方、活かし方。


 ……過去、敗北したことがある。

 それも、一度ではない。三度、負けた。

 この俺が『人類』に負けて、封印されたのだ。


 当時は意味がわからなかった。

 ただの不運――人類からすれば幸運の連続があっただけなのだろうと思っていた。


 しかし、三度の敗北と、その後の封印されている時間、すべてを思考に費やしたお陰で、ようやく俺は、自分の傲慢さをねじ伏せ、真実を見つめる目を養った。


 脆弱な能力しか持たない人類は、この俺を封印した。

 それは運勢などではない。やつらが連綿と築き上げてきた知識と技術によるものだ。


 敗北から学ばなければ、愚か者のままだ。


 連中がこの俺に勝利した理由はなにか?

 知識、技術、他には?


 罠を用いるのもいい。

 己の肉体で戦わぬのは脆弱さの証明……そう思っていた時期もあったが、向かい合う前に相手の力を削るのは立派な『戦術』だ。


 なにより、学ぶこと。

 人類は劣った能力を技術と知識で補った。そして、その二つの要素は『学び』によって得るしかない。


 他者に、そして、己に学ぶ。


 ……今やってしまったように、なにも考えず、力だけで世界を滅ぼすなんていうのは、下の下だ。

 自分の何気ない行動から自分の癖や短所を学び、同時に長所を学ぶ。

 短所は補い、長所を伸ばす。

 また、戦術、戦略、力の効率的な用い方を考えつつ行動しなければ、学ぶことはできない。


 無駄に世界を滅ぼしかけたというのは、そういうことだ。

 俺は今回の『下位世界剪定(せんてい)』において、学ぶことを怠った。



「……いかに己を説き伏せ、驕りをなくし、謙虚に学ぶ姿勢を身につけるべく努力しようとも、数千年付き合った『己』のあり方は、そう簡単に変えられぬか」



 自嘲する。

 いかに封印から目覚めた直後で力が戻っていないといっても、世界一つ滅ぼす程度の力はまだあるのだ。


 これがおそらく、いけない。

 力があれば、それに頼ってしまう。己の才覚と能力に溺れているようでは、また世界と敵対した時に、その世界の『人類』に負けるだろう。


 魔王と呼ばれたあの時、勇者に負けたように。

 悪魔と呼ばれたあの時、神に負けたように。

 そして荒ぶる神と呼ばれたあの時、たった一人の女に打ちのめされたように。


 俺は純粋なる『脅威』のはずだ。

 間違った世界を摘み取るだけの存在のはずだ。

 それが敗北していては、話にもならない。


 ならば――

 負けないために、弱くなろう。


 学ぶために、驕れぬ者となろう。

 罠を用いるためだけに、力なき身に落ちよう。


 学ぶのに最適な世界に転生をするのだ。


 転生の術式を用いれば、力は今の――封印から目覚めた直後で、一億人規模の世界を滅ぼすのがやっとという有様の、今の――百分の一ほどには落ちようが、そのぐらい弱くてちょうどいい。



「学ぶこと。……技術、知識……ならば、戦いのある世界がいい。弱者が苦心し、経験を語り継ぎ、それを体系化して、学問としているような……かつて俺という脅威に挑んだ者たちがいたように、なんらかの脅威に一丸となり挑んでいる世界がいい」



 ……ああ、そうだった。

 大事なことを、見落としていた。


 知識、技術、学び――それらはもちろん大事だ。

 けれど、それ以上に大事なものがあったのを、忘れていた。


 俺はいつでも、自分より脆弱なはずの生命たちの『集団』に敗れてきたのだ。


 連中は、俺には理解し得ぬ強い結びつきを発揮し、他者のために本来持ちうる以上の力を示した。


 群れるのは弱者のすることであり、俺には必要ない――過去、そう思っていたが、今はもちろん、違う。

 群れることは、大事だ。

 しかも、ただ群れるだけではない。


 隣に並ぶ者が倒れた時、怒りが湧くぐらいの結びつきがなければならない。

 背後にいる者を守るため、瀕死の状態からでも奮起できるほどの強い想いがなければならない。


 俺には理解できぬ、けれどたしかにある力。

 その力の名は、たしか――



「……愛。そうだな。生まれ変わるならば、誰かを愛せる、世界がいい」

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