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この世は優しくて甘い   作者: ニケ
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部署から部署へ当番のように回ってくる一分間スピーチ。今日は営業部だったようで、営業部長のヨシザワがステージへと上がってマイクの前に立った。まだ役員に提出していない報告書を片手に、のほほんとした顔をして集まった社員を見ている。一度深々と頭を下げ、自分よりも高い位置にあるマイクを何とか下げようと試みた。



「あ、ちょっと、全く。社長、背が高いですね。ほら、マイクが合いません。なんと羨ましい。。。」



ヨシザワの心底羨ましそうなぼやきがマイクによって大きく響いている。先ほどの検証部への責めるような雰囲気が少しだけ揺ぎ柔らかくなる。ピリピリしていた社員たちは、思わずといった様子で口元が緩み、場の空気もほんのり和んでいく。高い位置にあったマイクをようやく下げてヨシザワは満足したように穏やかな笑顔を見せた。



「本日の一分間スピーチ。この時間は、私たちからの感謝と懺悔の時間にさせてください。皆さんもご存知の通り、営業部は本年度で最高の利益高を更新しました」



ヨシザワがそう告げてマイクから一歩下がり深々と頭を下げる。社員たちからパラパラと小さな拍手が広がり、段々と大きな拍手になっていった。社長や役員たちも祝福の拍手を送っている。



「ああ、ありがとうございます。我々も力を尽くし、お客様にも喜んでもらえ、こうして皆さんから祝福を頂き、こんなに幸せなことはありません」



ヨシザワは大きな拍手に何度も頷いて、ありがとうございますと繰り返した。ヨシザワがマイクの前に立ち話そうとすると、次第に拍手が小さくなっていく。ヨシザワはマイクを通してまた、ありがとうと小さく呟いた。



「それで、私たち営業部は思ったのです。本年度、何があったのか。どういう気持ちで営業という仕事をやったのか。包み隠さず、ありのままお伝えしなくてはならないと。ほら、皆さんには、いつも私たちの我が儘や無理を通してもらってますからね」



楽しげに笑うヨシザワに何人かの社員は含み笑いをしている。みんな心当たりがあるらしい。しばらく目を細めていたヨシザワが何かを決意したようにゆっくりと口を開いた。



「私たち営業部は、ずっと。。。結果ばかり気にしてきました。いや、もちろん、結果を意識して仕事するのは、悪いことではありません。営業部の成績がそのまま会社の利益になりますし、結果を出すことがすべてだと言われても仕方ありません」



ヨシザワは一呼吸置きながら自分を見上げる社員の顔を見渡した。この一人一人にはそれぞれ生きてきた時間があり、人との関わりがあり、夢や希望、挫折や苦しみ悲しみがある。その人にしか知らない経験や想いや見ることができる景色がある。それはとてもかけがえのないものではないか。



「ですが、今回は結果というものを捨ててみたのです。皆さんがそれぞれの部署で会社を支え、営業部をサポートし、最高の営業成績を期待してくださった。だけども、私たちは結果というものを捨てた。全く意識せず、もう一度お客様と向き合い、真剣に営業とは何かを考えました」



ヨシザワは軽く息を吐き、昔を思い出すような目をして遠くを見た。ここにいる社員たちと同じくお客様にもそれぞれ生きてきた時間がある。売り上げを気にして自分たちの商品を売るだけでは、なんだか味気ない。もっと幸せにしたい。もっと笑顔にしたい。生きている人たちに自分たちができることはなんだろうか。



「人に物を売る、紹介するとはどういうことか。営業部のメンバー一人一人が考え、悩み、探し続けました。そういえば、ちょうど半年前、営業部の利益が昨年度を大幅に下回り、皆さんにはとても大きな不安と恐怖を与えてしまいましたね」



申し訳なかったと穏やかな顔をして社員一人一人を見つめる。じっと見つめ返す者、気まずそうに視線を外す者、反応は様々だ。報告書を渡すため特定の役員を探していたリュウガとコウもマイクの上に立つヨシザワを見つめた。



「あれは本当に酷かった。今だから言えるのですが、あの時、大きなお得意様と衝突し、関係を絶たれたのです。それも一件ではなく十数件。金額が大きいだけに多大な損失でした。結果にこだわらないと決めたはずなのに、営業部の中でも大きな溝ができてしまいました」



半年前、会社の花形だと言われいろんなところで優遇されていた営業部だが、成績が大幅に落ちたことを理由に他の部署からの風当たりも強くなっていった。優先的に処理されていた検証やクレームからの情報も滞っていき、会社内でも孤立しているような状態になっていった。成績が落ちても変わらず協力してくれる一部の部長、社員のおかげでなんとか危機を乗り越え、売り上げを上げていき、徐々に目標をクリアしていった。自分たちがいかに優遇されていたか、身をもって知ることができた。



「何人かのメンバーも営業部を去っていきました。引き抜きなど、他の会社に転職して。ある会社のプレゼンでは、ばったり会うこともありましたよ。昔の営業部メンバーとプレゼンで勝負するとは思いませんでしたが。。。」



ヨシザワは悲しそうに目を細めると、小さなため息をついて下を向いた。社員たちもヨシザワの悲しそうな雰囲気にしんみりとしている。



「ああ、ごめんなさい。。。それで、なんと言いますか。何度もプレゼンに負けて、大きな損失に繋がったんです。あの結果はそういうことだったんですよ。営業部のメンバーが転職した理由も。。。」



気を取り直したように明るく話し始めるヨシザワをリュウガとコウは黙って見つめた。半年前、急に少なくなった報告書を何も言わずデータ化したが、ヨシザワはいつもと変わらず優しい目で、ありがとうと言っていた。



「私たち営業部がどれだけ仕事をサボっていたか、思い知らされましたよ。自分の利益だけを優先に考えていた。自分たちさえ良ければそれでいいと思っていた。売り上げの成績さえ上げればいい。営業部独特の風潮がその証です」



ヨシザワは何かを吹っ切るように視線を上げ、会議室の天井を見上げた。社員たちは静かに聞いている。上を向いてぱちぱちと瞬きをした後、集まっている社員たちをまたゆっくりと見渡した。



「皆さんのおかげです。本年度の利益は、皆さんと共にお客様から頂いた、素晴らしい結果です。去っていったメンバーからの、大きな損失からのプレゼントだと、私は勝手に思っています」



ヨシザワはそう告げると、本年度の利益高である数字が書かれた報告書を高々と上げる。この数字にすべてが込められているのだと指を差した。



「私たち営業部は、自分さえ良ければいい、という暗黙の意識をすべて捨てて、これからはお客様の幸せのために、喜びのために営業していきます。お客様の喜びが、幸せが、私たち営業部の喜びであり、幸せだと教えて頂いたので」



報告書を下ろし、もう一度社員一人一人を見ながらヨシザワは穏やかに笑う。



「いろいろとまた不安や心配、迷惑をかけると思いますが、どうか、これからも一緒に働いてください。支えてください。助けてください。そして、何かあったら、営業部に相談に来てください。どうか、よろしくお願いします」



ヨシザワが言い終わり、深く丁寧に頭を下げた後で、役員の手元にあったタイマーが軽やかに鳴り響く。スピーチの一分間がちょうど終わったようだ。




スピーチが終わって会議室はざわざわと動き出した。ヨシザワの熱のこもったスピーチに心を奪われた社員たちはしばらく呆然としていたが、役員たちがステージから降りて帰ろうとする姿を見て慌てて体を動かした。リュウガとコウも依頼した役員が他の社員と話す前に報告書を渡すべく、社員と社員の間をすり抜ける。スピーチ中に探していた役員がステージの裏へと歩く姿を見つけて素早く移動した。



舞台裏のような扉を開けると、小さなランプが灯っていてぼんやりと人影が見える。昼間の明るい光も、内側の壁に遮られて部屋の中は薄暗い。



「ナカシマ相談役、ここにいらっしゃいたしたか」



他の社員たちから見つからないようにリュウガもコウも静かに部屋へと入ってくる。入り口を閉めてコウは扉を背にゆっくりともたれ掛かった。ここから先はリュウガとナカシマの時間だ。リュウガからの合図が来るまでコウは耳にイヤホンをつけてスマホをいじる。耳から音楽が流れ、何も聞こえないことを目で知らせると、リュウガは軽く頷き、持ってきた報告書をナカシマの前に差し出した。



「。。。見つかったのかね?」



「まあ。。。その、見ていただければ」



目の前の報告書をじっと見つめる。なかなか受け取らないナカシマの顔は、部屋が薄暗いためよく見えない。何も言わず動かないナカシマを見守りながら、リュウガは次の言葉が放たれるのを静かに待っていた。


書いていたら、なんかすごく何かに飲まれました。文章。。もっとうまくなりたいです。どうぞお読みください(*^^*)

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