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この世は優しくて甘い   作者: ニケ
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豪華な内装に似合わずメインエレベーターは迅速だ。楽しげに見つめるリュウガと誰もいない空間を楽しむコウを乗せて、どんどん加速しながら上の階へと昇っていく。微動だにしない内部でエレベーターの数字が凄まじい早さで増えていき、やがてゆっくりと止まった。



「7時40分♪これならスコーンと報告書を渡せるよー。なんせ、役員の誰かがいつも話しかけてくるからね」



「助かるわ~~」



個性的なリュウガと情報通のコウは秘かに役員たちから重宝されている。特にレイの父親である重役は、副社長としての地位もありながら息子の面倒をリュウガに任せた。経緯などいろいろ複雑な事情があるらしいが、最も信頼できるのはリュウガだと、あまり評価されない書籍部へ移動させたのもそこにある。具体的な理由はレイ自身にも知らされておらず、リュウガと重役だけの秘密として伏せられていた。



毎日の朝礼に二人が出れば何かと役員たちが寄ってきて、レイの様子や他の役員の情報など、いろんな角度から探ってくるのだ。もちろん、役員本人の問題も相談されることが多く、リュウガもコウも聞き役として対応しているが、たまに本気で依頼されることもあった。



書籍部の存在は、一般の社員にとって役立たずでも、役員にとっては頼りになる最後の砦となっていた。



「不思議だよねー、こんなに社会的地位もあって、家族にも恵まれて、順風満帆そうに見えるのにさー」



「本人の心は荒れてるってやつか?」



「うん」



コウは長年リュウガと共に書籍部の表の仕事であるデータ入力と、いつの間にか増えていった役員たちからの依頼をこなすなかで、ずっと疑問に思っていたことをリュウガに打ち明けた。元々、営業部の仕事だったデータ入力の仕事は、規模が大きくなるにつれ営業部だけでは処理できなくなり、リュウガとコウの独立という形で別の部署になった。



書籍部の名付けの理由は、単純にリュウガが、営業部の報告書を作っている最中に、



「これ、書籍にできたら、すんごく楽だわ」



と言ったことに始まる。それを聞いていた現在の営業部長が、いいね~~!と太鼓判を押し、そのまま書籍部という部署に決まった。



「個室もあって、お金もあって。仕事だって信頼だってある。なのにさー、なんで安心できないんだろうね」



「うーん」



「贅沢だって言ってしまえばそれまでだけど、僕、贅沢大好きだから。贅沢や家族の幸せのために、何かを犠牲にするのってよくわかんない」



役員たちからの依頼は様々で、今でもいろいろと案件を抱えている。周りが自分をどう思っているか調べてほしい、など軽めのものから、生き別れた隠し子のことが知りたい、などなかなかヘビーなものもたくさんあった。



心から大好きだった恋人との別れを選び、当時役員だった上司の娘と結婚して、そのことを後悔している、だの、妻には言えないがどうしても女装をしてみたい、欲望に抗えない、だの、話を聞くと普通の精神では対応できないものばかりだった。



「役員さんの相談を聞いてるとさー、幸せってなんだろう?って思うよ。自分の大好きなものを諦めて、役員になった今でもいろいろと我慢してるじゃない?」



「おう」



「やっと役員になるっていう夢が叶ったのに、全然楽しそうじゃないもの。自分で選んだはずなのに、心は後悔ばかりしている」



コウの素直な疑問にリュウガも渋い顔でうーんと唸った。確かにそうだ。自分の好きなものを捨てたとしても、ずっとなりたかった役員になり、本人が心から幸せならそれで構わない。でも依頼を聞いているとそうではない気がする。なぜか、とても苦しそうなのだ。



「夢を叶えるってなんだろう。。。それでも、一般の社員さんはほとんどの人が役員を目指しているんだよねー」



「。。。ああ」



「でも、実際はさー。役員さんって幸せそうに見えないよ。あ、本人のこと、何も知らなかったら幸せそうに見えるんだけどさー」



「うんうん」



コウの嘆きにも似た呟きにリュウガはエレベーターの内装を見るのを止めて熱心に聞き入った。ちょうど解決したことを報告がてら、今日は報告書の中に別の報告書を忍ばせている。これで依頼した役員が幸せになってくれるといいなと願いながらリュウガは口を開いた。



「まあ、俺たちができることはこうして動いて、解決して、また地下に帰ることなんだけどな」



「うん、地下大好きー」



「ははは!理想としては、その問題に本人が向き合って、結果的に解決できればいいんだけど。例えば、この依頼。大好きだった恋人の安否を知りたいだなんて。自分自身が一番調べたいだろうに」



「うん」



昔から個性的で友達や知り合いは多いが、深く人を愛したことがないリュウガは、特定の人に愛を注げる人をとても尊敬していた。コウもコウで、欲しいものは何でも手に入った環境で自分の興味と心を深く満たしてくれるものは少ない。リュウガと共に役員の依頼を受けて、人が叶えなれなかった想いを代わりに追い求めることで、その依頼から何か、かけがえのないものをもらっているような気がする。



「今回の依頼も無事終わったし。喜んでもらえるといいなぁ」



「そうだねー、隊長♪」



まだ調査中の案件は残っているものの、長い間気がかりだった恋人の行方と現在の状況はわかった。できるだけ正確に書いた報告書が、依頼主の心を明るくしてくれるといい。データ入力後の報告書を軽く持ち替えて二人は大きなエレベーターの扉が開くのを待った。


書きました~~(*^^*)どうぞお読みください♪

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